ここからは、オフィス内の仕様に特徴のある企業の移転事例を見ていきましょう。
CASE 4で取り上げるのはABWを導入したオフィスの移転事例です。ABWとはアクティビティベース型ワークプレイスの略で、従業員が行う仕事〈アクティビティ〉の種類に基づいて、自主的に働く場所を選択できる座席が固定されていないオフィスのこと。そのため、様々なビジネスシーンに応じて多彩なワークスペースが用意されており、これまでの一般的なフリーアドレスオフィスの進化系と言えるものです。賃貸借面積の削減はもちろん、働き方改革の推進にも寄与するもので、最近では導入事例も増えてきています。ここでは従業員650名の外資系M&Aアドバイザリー企業が、既存の大型オフィスビル1,000坪へ移転するケースを想定しています。
ABWの導入でコストメリットがあるのは、例えば従業員が営業主体で、朝一番と日中で在席率が大きく変わる企業で、使用面積の削減が可能となります。逆に、デスクワークが中心となる本社の管理部門や、システム開発会社などは、座席数を減らせないため、そのメリットはあまり期待できません。導入が可能な会社なら、おおむね20%程度の使用面積の削減が期待できるため、従来のオフィスよりも賃料負担が軽くなることになります。極端に在席率に差がある場合では、30%程度の削減が実現したケースもあります。
ABWの導入には、現行オフィスの使用状況や働き方の調査・分析、新たなワークプレイス戦略の構築が不可欠で、ここに時間とコストがかかることは避けられません。単純な話、今のオフィス状況がきちんと把握され、目指すべきワークプレイス像がはっきりとしなければ、何%使用面積が圧縮できるのかわかりませんし、それがなければ、移転先のオフィスを選択することさえできないわけです。「移転を機に働き方改革を」とはよく聞かれるフレーズですが、それを具現化する象徴的な手法とも言えるABWを導入するにあたっては、プロジェクトを進める前に、まずプロフェッショナルの手によるワークプレイスストラテジーの実施が必須でしょう。自社内に、そのようなソリューションを有する企業は極めて少ないですし、客観的な分析や判断が必要なところですから、ここは外部コンサルタントに委ねるべき部分だと言えます。
こうした先進的な働き方を導入しようとする企業が移転する場合、新築ビル、もしくは既存であってもグレードの高い、築浅のオフィスビルが選択されるのが普通です。そのためCASE4のシミュレーションでは、入居時の工事単価を高めに設定しています。ただし、この例では、650人の従業員に対し500人分しか席を用意していないため、固定席でオフィスを作った場合と比較して総額では安くできることが多くなります。
働き方改革の一環ですから内装にはそれなりのグレードが求められ、建築設備工事やIT工事は高くなる傾向にあります。また、家具類も働き方に合わせ新調するケースがほとんどです。言い換えれば、面積を削減した分、オフィス環境に配慮した投資にコストをかけるといったイメージでしょう。
また、ABWの導入には、フリーアドレスと同様にオフィス内の荷物の削減、特にペーパーレス化が必須となります。実際の引越の際は、個人レベルではパソコンとダンボール1箱程度に加え、部署ごとの共有の書類が少しあるぐらいといった荷物になりますので、引越コストは他のケースに比べてかなり安く済むことになります。
原状回復工事にかかるコストは、従来のオフィスがさほどハイグレードではないという前提で、このような単価でのシミュレーションとしています。
