売って終わりを覆す。STの二次流通「START」が拓く、
不動産投資の未来。
2021年の設立以来、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は日本の金融市場に新たな風を吹き込んできた。朏社長が率いる同社は、2023年12月にセキュリティ・トークン(ST)の流通市場「START」を開設。プロダクトが世に普及する前から市場構築に踏み切った背景には、「売って終わりの市場にしてはいけない」という強い信念があった。本稿では、ライセンス取得までの苦労や、株式PTSを運営しながらSTの布石を打った戦略、そして蓋を開けてみて驚いたという投資家動向まで、不動産金融の民主化を目指すST流通の現在地と未来を浮き彫りにする。
大阪デジタルエクスチェンジ株式会社
代表取締役社長 朏(みかづき) 仁雄 氏

プロダクト不在の荒野に「場」を築く、逆転の発想
私どもの設立は2021年で、もう5年が経とうとしています。当初、SMFG、野村ホールディングス、大和証券グループ本社といったそうそうたる顔ぶれにご参画いただき、株式のPTS(私設取引システム)からスタート。しかし、私たちの真の狙いはその先にありました。
設立の背景には、2020年の法律改正によってセキュリティ・トークン(ST)が定義され、まさに市場が立ち上がるタイミングがありました。SBIグループにはテクノロジーを積極活用し「金融を核に金融を超える」という強い想いがあります。私たちは、この新しい市場を「売って終わり」にしてはいけないと考えました。「売って終わり」では、投資家の資金が固定化され、ポートフォリオの入れ替えもできません。これではいずれ行き詰まってしまいます。
これまでの新しい金融商品では、発行市場(一次市場、プライマリー)で一瞬盛り上がっても、その後のマーケットが続かないケースが多々ありました。だからこそ、プロダクトが本格的に世に出る前に、私どものような二次流通市場(セカンダリー)という「インフラ」を先に作っておくことが必須である。この強い思いが、ODXと「START」の出発点なのです。いまだにSTのセカンダリーを手がけているのは私どもしかいません。「早すぎる」と言う声もありましたが、この順序こそが市場を普及させるために不可欠だったのです。
STの二次流通市場を始めるためには、PTSのライセンスが必要になります。しかし、当時はまだSTのプロダクト自体がほとんど世にない状態の中、その流通市場がビジネスとして立ち上がるには時間がかかる。そこで、ライセンスを取るなら同時に株式も扱い、まずはそこで市場運営のノウハウを蓄積しつつ、収益を確保する。株式PTSはいわば経営を支える基盤であり、ST市場を立ち上げるための布石でもありました。
「いつでも売れる」が呼ぶ、新しい投資のサイクル
現在、STの発行累計額は3300億円に達し、その8割から9割を不動産が占めています。10万円という小口から、誰もが知る渋谷のマンションや汐留の大型ビルに投資できる。これは、これまでプロの世界に限られていた不動産投資をリテール(個人)に開放する革命です。ブロックチェーン技術を使えば、小口化してもコストが増えにくい。この特性を活かし、ネット証券や対面証券の窓口を通じて、一般の投資家が株と同じ感覚で売買できる仕組みが構築されたわけです。
では、なぜ今、二次流通市場が必要なのか。それは発行市場の投資家だけでは限界があるからです。いつでも値段が付いて、いつでも売れる。この「換金性」があるからこそ、投資家は安心してエントリーできます。二次流通市場でお試しで10万円買った人が、その投資メリットや面白さを知り次の発行機会(一次市場)に参加する。私たちは、この「ポジティブなスパイラル」を回したいのです。
レジデンス、オフィス、ホテル、ショッピングセンターなどのようにアセットも多様化し、「W Osaka」のような著名なホテルも流動化されています。現在、「START」では、そのうち不動産・社債を8銘柄、時価総額にして約334億円を扱っています。最近では、ST発行時の目論見書に、最初から「START取扱予定」と記載されることも多くなってきました。

投資家同士で自律的に育つ流動性、発見される「真の価値」
実際に「START」を運営してみて、興味深い発見がありました。当初は「投資家が換金したい時に、マーケットメイカー(常時「売り」と「買い」の価格を提示し、取引の流動性を担保する指定事業者)が買い取る」という一方通行の取引が主になると予想していましたが、蓋を開けてみると、投資家とマーケットメイカーの約定量よりも投資家同士の売買による約定量の方が多かったのです。これは投資家間で自律的な流動性が生まれ始めていることを示しており、非常に心強い実感となっています。
ST投資の醍醐味は、インカムゲインだけではありません。実際にあった事例としてSTART市場での取り扱いはありませんでしたが、5年の運用期限を前に物件が1.4倍超で売れ、早期償還された案件がありました。レバレッジの効果で最終償還額は元本の約80%増となり、期間中の分配金を合わせるとトータルリターンは90%を上回ったのです。100万円が190万円超になる――。この結果には投資家も大変驚き、喜んでいました。もちろんこれは過去のパフォーマンスのご紹介であり、将来の運用成果を約束するものではないことにご注意ください。
半年に一度の鑑定評価と、市場でのリアルタイムな価格形成。この両輪が回ることで、不動産の「真の価値」が見えてくると考えています。金利上昇局面でも物件価格が下がらないのは、市場がインフレを見越しているからでしょう。金融市場によって「価格発見」が行われることで、より高い頻度で、多様な意見やニーズを有する多くの市場参加者の視点によって継続的に実物不動産の価値がチェックされていく。私たちはこうして、不動産流動化が見えやすく、より信頼される市場となっていくことを後押ししたいと考えています。
金融の力で不動産を「拓く」、世界の資金が流れ込む場所へ
今後STは不動産や社債だけでなく、ベンチャーキャピタルファンド、知的財産(IP)、航空機や船舶といった動産へと対象を広げていくでしょう。発行されるSTの3分の1は「START」に入ってきてほしい。現時点で取り扱いを検討している銘柄を加えると取扱時価総額が1000億円程度となることを見込んでいますが、現在の10倍、3000億円程度の規模になれば多くのネット証券も参入してくるでしょうし、市場は爆発的に成長するはずです。
さらにその先には、グローバルな展開を見据えています。現在は国内で完結していますが、将来的には海外でトークン化された資産や日本の不動産STがシームレスに行き来できる世界も可能です。日本の魅力的な不動産を、世界の投資家が「経済的シェア」として自由に売買する。ブロックチェーンという開かれたネットワークを、信頼できる証券インフラとして機能させることで、日本を世界に開かれた投資市場にしたいと考えています。
設立から5年。あっという間でしたが、ようやく「新しい金融の始まり」が見えてきました。不動産投資の常識を塗り替え、あらゆる資産に流動性を宿らせる。ODXはその最前線で、チャレンジを続けていきます。
