「デジタル」を「手触り感」へ。KDXが挑む、
不動産STによる「価値の民主化」。
アセットマネジメント(AM)のフロントランナーとして、常に市場をけん引してきたケネディクス。同社が今、心血を注いでいるのが、不動産セキュリティ・トークン(ST)による投資機会の開放だ。単なる金融商品のデジタル化に留まらず、現物不動産が持つ本来の「魅力」や「手触り感」をいかに投資家に届けるか。本稿では、クラウドファンディングでの苦い経験を糧にしたSTへの早期参入の舞台裏から、J-REITとは異なる独自の醍醐味、そしてAMの「総合職人技」が問われる運用の矜持まで、不動産への深い想いが生み出す新たな投資体験の全貌に迫る。
KDX ST パートナーズ株式会社 代表取締役社長 中尾 彰宏 氏

プロから個人へ、資産開放の門戸を叩く飽くなき挑戦
私たちケネディクスは、不動産AM会社として、投資家の皆様から資金をお預かりし、不動産で運用する「不動産ファンド」を主軸に事業を展開してきました。そして、同事業を拡大する上で、常に追求してきたのが「投資家層の多様化」です。元来、私たちのビジネスはプロ向けの私募ファンドが中心でした。年金基金や保険会社、海外ファンドといった機関投資家が主な顧客です。2005年からはJ-REITにも参画し、個人投資家の方々にも門戸は開かれましたが、市場のメインプレイヤーは依然として機関投資家です。
こうした背景から、私たちは2017年に野村総合研究所とジョイントベンチャーを設立し、クラウドファンディングというスキームを通じて個人投資家から直接資金を募るビジネスを開始しました。しかし、率直に申し上げて、クラウドファンディングは私たちが期待したほどのスケールには至りませんでした。そこで直面した課題こそが、後に私たちが日本でいち早く不動産セキュリティ・トークン(ST)への参入を決めた大きな要因となっています。
クラウドファンディングでの挫折が導いた、不動産STの活路
クラウドファンディングは少額投資を可能にする優れた仕組みですが、商品設計の柔軟性に欠けるという弱点がありました。中途売却が原則不可であるため、10年といった長期の運用期間を設定しづらく、結果として1年から1年半という短期間の運用を繰り返さざるを得ません。これではビジネスとしての積み上げが難しく、運用によりキャッシュフローを育てる時間も限られるため、投資対象も利回り重視の「デット型(債券に近い形)」に偏ってしまいます。すると投資家は数字としての利回りだけを見るようになり、不動産の個性――例えば「六本木の最新ビル」なのか「地方の築古物件」なのかといった価値の差が評価されにくくなる。これでは私たちの強みである不動産選定能力や運用力を活かすことができません。さらに大きな壁は「口座開設のハードル」でした。私たちのクラウドファンディングに投資するためだけに、投資家は本人確認やマイナンバー登録など煩雑な手続きを経て、専用口座を作らなければなりません。この顧客獲得のコストとスピード感が、事業のスケールを阻んでいたのです。
これに対しSTは「第一種金融商品取引業」の枠組み、つまり証券会社を通じて扱われます。野村證券や大和証券といった大手証券会社が持つ数百万の既存口座を通じて、株や債券と同じ感覚で不動産に投資していただける。この既存の金融インフラを最大限に活用できる点、そして中途売却が可能で30年といった長期運用や外貨建てなど柔軟な設計ができる点が、クラウドファンディングにはないSTの圧倒的な強みなのです。
金融から不動産へ、「資本市場のノイズ」を排する最適解
よく「J-REITとの違いは何か」と問われます。J-REITは20兆円を超える巨大市場であり、極めて優れた商品ですが、あまりに「金融商品化」されすぎてしまった側面があります。効率化追求のため、数十棟以上の物件をパッケージ化して「規模の経済」を働かせる。しかし、投資家からすれば、自分がどの不動産に投資しているのかという実感は薄れていきます。さらに深刻なのが「資本市場のノイズ」です。J-REITの価格は、不動産そのものに問題がなくても、海外の株価動向や株式指数の採否といった外部要因で激しく上下します。機関投資家の都合による売買で価格が揺さぶられてしまうのです。
一方で不動産STは、資本市場のノイズに影響を受けにくく、株や債券との分散効果が期待できます。基本的には単一の物件、あるいは少数の物件で構成されるSTは、自分がどの物件に投資しているのかが明白で、価格も不動産鑑定評価に基づき安定しています。デジタルの力を使うことで、「買いやすさ(金融商品の利便性)」だけでなく「わかりやすさ(現物不動産の透明性)」とも両立させることができる。これこそが、J-REITにはないST独自の価値です。実際、私たちのSTを購入されているのは、不動産投資未経験者ばかりではありません。むしろ、管理の煩わしさや税制変更を懸念して、現物不動産投資からSTへとシフトしてこられた経験豊富な投資家の方々も多いのです。

逃げ場のない「一品勝負」で問われる、AMの「総合格闘技」
不動産STは、私たちAMにとっても非常にプレッシャーの高い商品です。100物件あるJ-REITなら数物件の不調はカバーできますが、STは単品勝負。リーシングの成否や売却価格が、投資家のリターンに直結します。STには原則、運用期間の最後に「売却」という出口がありますから、運用期間中にどれだけバリューアップし、いかに良いタイミングで売却してキャピタルゲインを提供できるか。その成績が白日の下にさらされるわけです。
目利き、運用、売却、そして個人投資家への丁寧な説明。これらすべてが問われるSTは、アセットマネジャーにとっての「総合格闘技」と言えるでしょう。しかし、だからこそ腕の振るいがいがあり、私たちの運用能力の底上げにもつながると確信しています。
投資と消費が溶け合う未来、デジタルが呼び覚ます不動産の「情緒的価値」
私たちはSTを単体で完結する商品とは考えていません。10万円から投資できる利点を活かし、複数のSTを組み合わせることで、個人投資家が株・債券に加えて自分だけの不動産ポートフォリオを構築する「分散投資のツール」にしていただきたいのです。
将来的にはAIが投資家のライフスタイルや家族構成、趣味嗜好を学習し、最適なSTのポートフォリオを提案する時代が来るでしょう。また、ブロックチェーン技術が進展すれば、投資と消費の境界線すらなくなる可能性もあります。例えば、保有しているビルSTの一部を切り崩し、瞬時にステーブルコイン(デジタル通貨)に変換してコンビニで買い物をするといった、物物交換に近い体験も理論上は可能です。
さらに、地域インフラやスタジアム、美術館といった「応援したい」「利用したい」という感情(情緒的価値)を伴うアセットも、多様な投資ニーズを有する個人投資家向けのSTなら商品化できます。自分が投資しているホテルの価値を高めるために宿泊し、口コミを書く。投資家がファンとなり、不動産の価値向上に直接寄与する「正の循環」が生まれるのです。
「限りない可能性」を拓く、眠れる資金をアクティベートする社会への使命
現在、国内の不動産STは60銘柄ほどですが、この数は今後、指数関数的に増えていくはずです。商品設計の柔軟性を活かし、海外不動産や開発型案件、さらにはインフラ施設など、多様なニーズに応える商品が揃っていくでしょう。
私たちケネディクスは、モバイルアプリの提供などを通じて、投資家の皆様が直感的に、かつ安心して投資できるインターフェースの開発にも注力しています。私たちが提供しているのは単なる不動産ではなく、「ケネディクスというプロが責任を持って運用するサービス」そのものなのです。
「世界の中から不動産の価値を見出し、動かし、人々に届けていく」。このパーパスのもと、デジタルの力を活用し、眠っている個人マネーを活性化させ、人々の生活を豊かにし、社会課題の解決にも貢献していく。不動産、金融、そしてデジタルが融合したこの新しい市場で、私たちはこれからも挑戦を続けていきます。