街を創り、育み続ける 複合開発のイノベーター
「私たちデベロッパーは、何十年という単位で街づくりを行うのが仕事です」。そう語るのは、森ビル(株)営業本部オフィス事業部営業推進部部長の竹田真二氏だ。「街がどのように発展し、人々の働き方や暮らしはどうなるのか?そのシーンを支えるオフィスや住宅、仕掛けはどうあるべきか?それを考えるのが仕事だと思っています」。
森ビルは、赤坂・六本木・虎ノ門を街づくりの戦略的地域と位置づけ、アークヒルズ(1986年)を皮切りに、六本木ヒルズ(2003年)、虎ノ門ヒルズ(2014年)を開発。人々の働き方やライフスタイル、社会課題などを見つめながら、それぞれの時代で最先端とされる複合開発を手がけ、2023年の秋には、虎ノ門ヒルズ4棟目となるステーションタワーと、麻布台ヒルズが開業を迎えた。
アークヒルズは、情報化社会の到来という当時の時代背景のもと、長い通勤時間を解消すべく、職住近接を提唱。街のコンセプトとして「24時間都市」を掲げ、オフィスにはOAフロアやシステム天井をいち早く採用するなど、先進のワークプレイスを構築した。続く六本木ヒルズでは、計画時にバブル経済が崩壊、経済的な観点に偏りがちであった開発に対する考え方を一新。コンセプトを「文化都心」と定め、文化施設などを含む複合開発を行った。その結果、開業から20年、今も世界に名だたる企業が拠点を構え、最新のカルチャーに触れられる街として、年間約4,000万人が訪れる。「六本木ヒルズは、文化が人や企業を成長させる仕掛けとして機能しており、昨今の複合開発のあり方に先鞭をつけたと自負しています」と、竹田氏は語る。
街であることを前提とした開発だから、信頼性の高い「安全」を確保できる
六本木ヒルズ計画時には、阪神淡路大震災(1995年)やアメリカ同時多発テロ(2001年)が起き、開業後には新潟県中越地震(2004年)や東日本大震災(2011年)が発生。省エネや環境への配慮に加え、そのような災害を想定し、開業時からガスエンジンで発電を行うコージェネレーションを導入したほか、バックアップ電源やセキュリティゲートを設置するなど、BCP対策にも力を入れてきた。「建物自体が強靭であることはもちろん、中越地震のときに設備などの管理体制を見直していたので、東日本大震災でも電力を失わず、エレベーターも動かすことができました。帰宅困難となったワーカーやお客様の安全を守れたのも、街として複合開発を行い、万一のときに対応できる施設環境と機能を担保できていたからだと思います。東日本大震災後の電力需給がひっ迫した時には、東京電力に電力を供給するほどでした。そのなかで、テクノロジーだけでなく、日頃の保守や危機管理に対するマンパワーも大事だと実感しました」。
先般のコロナ禍では、六本木ヒルズの入居企業をはじめ、居住者、店舗や様々な施設の運営スタッフなど、約10万人を対象にいち早く職域接種を実施。人が暮らし、働く街としての体制づくりも、森ビルの手がけてきた一連のヒルズが、今も高く評価される理由に挙げられるだろう。
虎ノ門ヒルズは、地下を通るマッカーサー道路とともに整備を行った森タワー(2014年)をはじめ、近年はビジネスタワー(2020年)、レジデンシャルタワー(2022年)が開業。さらに2023年10月には、東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ」駅と一体となったステーションタワーもでき、さらに交通至便な街へと進化を遂げた。「虎ノ門ヒルズは、ビジネスエリアの東京駅や品川駅、渋谷・新宿方面を外縁としたら、その真ん中あたりに位置します。どちらへ行くにもアクセスがよく、羽田空港も車で20分弱。世界が一段と近くなり、私たちは国際新都心・グローバルビジネスセンターとも称しています」と、竹田氏。虎ノ門ヒルズでは、大企業の新規事業創出をミッションとするインキュベーションセンター「ARCH」や、スタートアップのコミュニティ形成やイノベーション創出などを支援するシェアオフィス「CIC Tokyo」も運営。新たに開業したステーションタワー最上部には、ビジネス、アート、エンターテインメント、テクノロジー、ファッションなど、東京から世界へ向けてコンテンツや情報を発信する拠点「TOKYO NODE」を設けた。「グローバルで戦える都市じゃなきゃいけない。それが虎ノ門ヒルズです。CICは、米マサチューセッツ州ケンブリッジ市にて創立、20年以上にわたり、イノベーターを支援し続け、東京はアジア初の拠点、国内では福岡にも拠点を設けることが決まっています」。
2023年11月には、麻布台ヒルズが竣工。「モダン・アーバン・ビレッジ」をコンセプトとし、「グリーン」と「ウェルネス」を軸にした街づくりを標榜する。「コロナ禍で実感したのは、テクノロジーが発展しても、最後に行きつくのは人ということです。そこで、麻布台ヒルズでは、都市でありながらも自然に囲まれた環境で、人のコミュニケーションを大切にしたいと考えました」。竹田氏が語るように、麻布台ヒルズでは、はじめに人の流れや人が集まる場所を考慮し、約8.1haの計画区域の中央に広場(約6,000㎡)を確保。そのうえで3棟のタワーを配置するなど、従来とは逆の発想で設計を行い、最終的に約2.4haの緑を実現した。
麻布台ヒルズの延床面積は約861,700㎡となり、オフィスや住居、文化・商業施設のほか、東京最大規模のウェルネス施設を有するラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」や、「慶應義塾大学予防医療センター」、都心最大級のインターナショナルスクール「ブリッティッシュ・スクール・イン東京」などが入る。高さ約330mの森JPタワーには、ワーカーが利用できる「ヒルズハウス麻布台」も開設した。「これはGAFAに代表される世界の巨大IT企業などで取り入れられているワークスペースの一種、キャンパスオフィスの『アメニティを入居企業でシェアする』という概念を、『ヒルズ』を使い尽くせる仕組みを作ることで実現しようという試みです。ラウンジや会議室、カフェやレストラン、多目的スペースなどを設けたので、例えばウェルネスに関するイベントを開催してヒルズ内のレストランと連携することで、人と街の機能をつなぎあわせる仕掛けの場にもなります。ヒルズを使い倒し、ヒルズで働くということを、最も具現化した場になるかもしれないです」。
麻布台ヒルズは再エネを積極的に活用し、国際環境認証「LEED」で、都内初のプラチナランクを取得。健康やウェルネスの認証「WELL」も最高ランクを取得した。また、ベンチャーキャピタルを集め、虎ノ門ヒルズのARCHやCICとも連携するなど、スタートアップへの投資や成長を支えるためのリスクマネー供給の拠点も運営する。 竹田氏は語る。「コロナ禍を経た今、街の機能や仕組みを強みとするオフィスと、それ以外のオフィスの二極化が加速すると思います」。都市を育み、企業と人をエンパワメントしていく森ビルに今後も注目したい。






