一方で、2000年の制度創設から四半世紀を経て、定期借家契約(定借)は完全に市場に定着しました。東京のオフィス市場における主要デベロッパーの物件は、普通借家契約(普通借)の選択肢を残すケースがわずかに見られるものの大半が定借で占められており、普通借の物件を探すのは難しい状況です。地方都市でもこの波は広がっており、例えば福岡では5年前と比較して定借文化が急速に拡大していますし、比較的定借が浸透していなかった大阪のオフィス市場では、昨今の需給ひっ迫の中、賃料値上げよりも「契約を普通借から定借に切り替えること」を優先する動きなども見受けられます。
また、中小規模のビルであっても、オーナー側が将来の売却やファンドへの組み入れ、株価対策、再開発のしやすさ(賃料アップサイドの確保)を考慮し、普通借から定借へ変更する事例が増加傾向にあります。オフィス仲介の現場においても、過去のようにテナント側から「普通借の物件しか受け入れない」という条件が出されることもなくなり、借り手側も定借を受容することが一般的となっています。
契約期間の短期化(3年定借の台頭)
定借が定着する一方で、賃料だけでなく契約期間も重要なポイントの一つとなっています。当社をはじめ各社が示すオフィスマーケットデータでは、定借の契約期間はほぼ一貫して長期化への推移を示してきましたが、直近の現場感としては、1契約あたりの契約期間は短期化の傾向が見て取れます。これまで大型のオフィス移転では、10年といった長期間の定借契約が見られましたが、最近ではオーナー側がインフレや相場上昇の機会を逃がさず賃料に反映させたい(固定賃料で長期間ロックしたくない)という思惑から、3年や5年への短縮化が進んでいます。
実際、3,000坪クラスの大型オフィス移転においても、「3年定借」で契約が締結される事例が出てきています。このクラスになると、入居工事に約1年、稼働してわずか1年程度で次回の再契約交渉が始まるといった非常にタイトなスケジュールを余儀なくされ、本社移転レベルの規模感としては、あまりに短すぎる契約と言えるのではないでしょうか。
こうした契約期間の動向は、その時々の市場(需給関係)に大きく左右されます。需給が緩い時期、例えば大量供給期やコロナ禍など、オーナー側も「長期間にわたり安定した賃料収入が得られること」を歓迎して長期契約に応じましたが、現在の需給バランスがタイトな市場においては、短期契約で定期的に賃料を底上げする手法が選択されています。
なお、かなり昔の話にはなりますが2007年の需給ひっ迫・賃料相場急上昇期(当時は供給が限定的で過密感・過熱感が際立っていました)と比較すると、現在は十分な新規供給がありながらも坪8万円~10万円といった突き抜けた賃料を設定する動きが見られます。昨今の市場は、不動産売却を見据えた健全かつ強気なアプローチが混在しているのが特徴と言えるでしょう。

