行政と民間の「共創」で創り上げる、スタートアップ集積都市・仙台の新たなステージ

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更新日 : 2026年07月07日掲載日 : 2026年07月07日
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100以上※の高等教育機関が集積する強みを活かし、産学官の連携によるエコシステム構築が加速する仙台市。大学発スタートアップの創出から地元への定着までを見据えた「リサーチコンプレックス」の形成に向け、仙台市はいかなる戦略を描いているのか。次々と生まれる新たな拠点や支援策の展開と未来像について、経済局イノベーション企画課の小池伸幸課長にお話を伺った。

仙台市 経済局イノベーション推進部
イノベーション企画課
課長
小池 伸幸

コンパクトシティの強みを活かすリサーチコンプレックスの全体像

本市は、東京から新幹線で最短90分というアクセスの良さと、商業や医療などの都市機能が調和したコンパクトシティです。「学都」として100以上の高等教育機関が集積し、若く多様な人材が集まる優位性を持っています。高等教育機関が集積していることに加え、南北や東西へのアクセスが良好な点も、研究開発環境として大きな魅力です。

現在、本市では「リサーチコンプレックス」の形成を推進しています。全国ではライフサイエンスや製造業など特定の産業分野に軸足を置いて拠点形成を進めている都市もあります。その中で仙台市は、東北大学をはじめとする学術研究機関から生まれたディープテック系スタートアップと、企業や学術研究機関、高等教育機関が集積し、相互に連携しながらイノベーションを生み出すエコシステムの構築を目指しています。次世代放射光施設「NanoTerasu」の稼働や、東北大学の「国際卓越研究大学」認定など、本市にとっては、イノベーション創出をさらに加速させる、かつてない好機を迎えています。

「目詰まり」解消へ向けた一手、成長企業向けラボ不足という課題

大学発のスタートアップが誕生する環境は整いつつある一方で、大きな課題も明らかになってきました。それが、「成長段階にある企業向けのウェットラボ不足」です。市内には誕生期の企業が入居する小規模なラボが100室以上ありますが、いずれも高い稼働状態が続いています。

企業が成長し、より広いスペースや量産に向けた試作開発ができるラボへ移りたくても、適切な広さの受け皿が市内にありませんでした。その結果、意欲的に起業したスタートアップが市外や県外へ拠点を移さざるを得ない、いわば「目詰まり」の状態が生じていました。成長企業が地域に定着しなければ、次の世代が目指すべきロールモデルが不足し、地元企業とスタートアップの受発注といった好循環も生まれにくくなります。これは、イノベーション・エコシステム構築において、見過ごすことのできない状況でした。

既存施設のラボへの転換補助事業、想定以上のニーズと確かな手応え

この課題を早期に解決するため、本市では既存建物のリノベーションによる「仙台市ウェットラボ整備の先導的モデル創出事業」を実施し、改修費の2分の1(最大1億円)を補助する制度を打ち出しました。成長期企業のニーズに応えるため、各部屋100~200㎡規模で、十分な耐荷重や給排水設備などを備えたラボの整備を支援するものです。

第1号案件として、市内の株式会社ユーメディアが旧印刷工場を改修した「MEDIUM(メディウム)」が竣工しました。整備の発表後、市内だけでなく域外の企業からも「仙台に一定規模のウェットラボがあるならぜひ拠点を構えたい」と反響があり、まもなく満室となる見通しです。正直なところ、当初は具体的な需要を見通しきれていない部分もありましたが、この取り組みを通じて、成長段階にある企業の潜在的なニーズの高さを改めて実感しています。

オーナーにも広がる新たな価値、施設転用による市場への波及効果

工場や倉庫といった遊休不動産のラボ転用は、仙台の不動産市場や地域経済にも新たな波及効果をもたらすものと期待しています。築年数の経ったオフィスや工場は、従来の用途では入居者を確保しにくいケースも少なくありませんが、付加価値の高いウェットラボに転換することで、一定の賃料水準でも入居ニーズが見込めることが確認できました。

オーナーにとっても、単なる空きスペースの活用にとどまらず、新しい価値を生み出す拠点となります。さらに、ユーメディアの事例のように、本業である印刷業や広告代理業と、入居するスタートアップの情報発信を掛け合わせるなど、既存事業とのコラボレーションが生まれれば、地域経済への相乗効果はさらに大きくなると考えています。

仙台スタートアップスタジオなど、助成やソフト・ハードの定着支援

ハード面の整備に加え、企業を惹きつけ、地域に定着してもらうためのソフト面の支援策も拡充しています。拠点形成支援として、指定地域に新たに事業拠点を開設する事業者に対し、拠点賃料(年間平均月額)を最大3年分助成する「仙台市企業立地促進助成金」や、東北大学との共同研究等を行う事業者に月額賃料の3分の1を最大3年間補助する「リサーチコンプレックス賃料補助金」を用意しています。さらに今年度からは、スタートアップ企業が高額な装置を移転する際の費用を最大200万円まで補助する、全国的にも珍しい制度を新設しました。〔図01〕。

また、仙台駅前のアーバンネット仙台中央ビル「YUI NOS(ゆいのす)」には、 2024年に「仙台スタートアップスタジオ」を開設しました。ここをハブとして、首都圏等で活躍する専門家によるメンタリングや窓口相談、イベントなどを行い、ハードとソフトの両面から支援体制の充実を図っています。

支援と環境整備の「相互作用」、行政支援で生み出す共創サイクル

「MEDIUM」や「YUI NOS」のような拠点が誕生したことで、多様なプレイヤーが集積し始めています。今後は、こうした場を舞台としたオープンイノベーションや共創を、市として積極的に後押ししていきます。具体的には、市内のスタートアップの技術や得意領域を整理・可視化し、進出している大企業や首都圏の企業とのマッチングを「お節介役」としてプッシュ型で丁寧に進めていく考えです。

私たちが目指すのは、「リサーチコンプレックス」形成のための環境整備と、「スタートアップ支援」とが相互に作用する仕組みです。成長したスタートアップが、新たな雇用や取引を創出し、ロールモデルとして地域に良い影響を与え、それが連鎖していく。研究機関や大企業とも、物理的にも心理的にも適切な距離感で共創できる環境を整え、仙台ならではのイノベーション・エコシステムを育んでいきたいと考えています。〔図02〕

※:学校基本調査(文部科学省)令和5年

上記内容は 「BZ空間」2026夏号 掲載記事
です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。