かつて自動車の普及が住宅の郊外化を推し進めたように、自動運転トラックの進展は、サプライ・チェーンおよび物流施設に大きな影響を与えると考えられる。変化の最大の要因は人件費。米国では、ロサンゼルスからニューヨークまでの輸送コストの約75%を人件費が占めており、この削減意欲が実現を強く後押しするだろう。また業界では、3K業務に起因する離職率の高さから、運転手の確保が切実な問題となっている。トラックがモバイル・コンピュータに成り代われば、技術指向の若い世代が機能アップした大型トラックの運転に魅力を感じ、労働力を引き寄せるかもしれない。
自動運転トラックは、物流事業者の営業エリアを大幅に拡大する。米国連邦規制によりトラック運転手の勤務は週70時間に制限されており、実質的な移動距離は最長3,000マイル、つまり1日当たり400~500マイルに限られる。自動運転によりこの制限は緩和され、より遠隔地の物流施設を利用できるようになる。結果、流通コスト圧縮から、eコマースの売上増が予測できる。
現在、自動運転の輸送技術は、世界中でテストされている。2016年4月、約12台の自動運転のセミトレーラー・トラックの一団が、ヨーロッパの4つの国境をまたぎ2,000マイル以上を走行した。これはオランダのインフラストラクチャー・環境省が編成したもので、6社の自動車メーカーが参加した。走行は、Wi- Fi 接続の車団が一定速度で密接(約30フィート)し縦隊を作って走る「プラトーン走行」と呼ばれる手法で、ベルギー、デンマーク、ドイツ、およびスウェーデンの製造施設からオランダのロッテルダム港まで無事到着した。トラック輸送業界はこの技術に大きな期待を寄せており、Eyefortransport(EFT)の調査によると、回答者の51%は今後9年以内に自動運転トラックを導入したいとしている。
アジア太平洋地域の複数の政府は、民間企業および大学と協力して自動運転の路上試験を行っており、オーストラリア、シンガポール、日本、および中国がこの技術でリードしている。2015年後半、ボルボは、オーストラリア南部で業界団体と協力して自動運転の路上試験を実施。シンガポールは、政府が新興企業nuTonomyの技術を利用して自動運転技術を急速に発展させており、2016年には完全自動運転タクシーの試験を実施した。またシンガポール交通省(MoT)およびシンガポール港湾庁(PSA)は、物流効率の向上や交通混雑削減に向け、トラックによるプラトーン走行の実現を目指している。その他、路上試験は中国および日本でも実施されている。フォードと中国国内パートナー企業である長安汽車は、重慶から北京まで6日間で1,200マイルの路上試験を終えている。
自動運転が機能するためには、基本的なインフラが必要である。そのため、短期的には先進国の方がこの技術に適している。また、この技術に対する支払い能力および導入能力も、先進市場の方が新興市場よりも高い。米国、ヨーロッパ、および発展したアジア太平洋地域(オーストラリア、日本、中国、およびシンガポール)では、特にこの技術の試験がすでに実施されているため、現在、自動運転を実現する可能性が最も高い。ただし、新興市場でもこの技術の恩恵は享受できる。というのは、インドや中国、ブラジルといった国々では、交通渋滞と交通死亡事故がまん延しており、自動運転による交通制御や、運転基準の向上が期待できるからである。さらに、これらの国々(特に中国)が成熟して中間層が増えれば、消費が拡大し、社会インフラとして物流能力を高める必要が生じるであろう。 最後に、中国とシンガポールは、導入プロセスにおいてリーダーとなる可能性が高い。というのは、両国において自動運転技術は政府の強力なバックアップのもと進められており、規制上のハードルにほとんど直面していないからである。シンガポールの交通省は、自動運転技術の開発に積極的に取り組んでおり、これは、都市の人とモノをすべてデジタル接続しようとするシンガポールの新しい試み「スマート・ネイション」政策により、後押しされるはずである。
自動運転トラックの全面導入はまだ遠い将来の話であるが、
一般的に技術の発展は、専門家の予測よりも早く実現されている。
この技術の進化も予測よりも早く進むであろう。
Richard Barkham(CBREチーフエコノミスト)
各地で自動運転に関する一定の法律は制定されつつあるが、同技術を法律の範囲で運営する道のりはまだ遠い。例えば米国では、法的な枠組みを定めた最初の措置が講じられており、カリフォルニア州とネバダ州では自動運転車両の免許を認め、米国運輸省では自動運転車両の導入指針を発行している。少なくとも23州では、自動運転に関連する53件の法律が議会を通過している。ただし、州ごとの法律の違いによる個別の導入を防ぐため、連邦法が必要だとする主張もあり、米国政府は、連邦規制当局と自動車業界との連携から安全で信頼性の高い自動運転を実現できる政策と法律の策定に向け、40億ドルを捻出する法案を示している。ただ残念なことに、この法案は、現時点では議会承認も予算計上も得られていない。アジア太平洋地域では、前述のように中国とシンガポールが法的な課題が少ない。オーストラリアや日本、およびヨーロッパ諸国は、自動運転の導入前に克服すべき法律上の課題が多い。
自動運転トラックの輸送技術は、次の 3つの点で物流施設に影響を及ぼす可能性が高い。
- 輸送コストの低下から、サプライ・チェーンに必要な物流センターの数が減少。すでにセンターの統合や規模拡大の傾向は見られるが、それがさらに顕著になると予測する。結果、ストック全体の棟数は減少するが、大規模物流施設が遠隔地に建設される可能性が高い。
- ラスト1マイルの配送施設は流通網の必須要素であり、今後、使用車両がディーゼルから電気へと変化するなか、大型の自動運転トラックを受け入れるとともに、電気式の都市配送車が導入される。同拠点には、広範囲なバッテリー装備施設の設置が必要となる。
- すべての物流施設には、行き来する自動運転トラックの操作と収納を容易にする敷地内のトラックヤードが必要となる。
図1:自動運転車両の技術の短期的、中期的、および長期的スケジュール
出典: CBRE Research(2016年第2四半期)
