マルチテナント型物流施設を工場用途に変更し、小ロット・オンデマンド製造拠点を構築。

ケーススタディ
更新日 : 2018年01月21日掲載日 : 2017年07月11日
倉庫

射出成形・切削加工のオンデマンド製造サービスを提供するプロトラブズ。
2009年の日本進出以来、すでに2度の拡張移転を行った
同社が考える物流施設のメリットとは何か、
また同時に抱える課題とは何か。
同社社長トーマス パン氏への取材から探ってみた。

トーマス パン 氏

プロトラブズ 合同会社
社長
トーマス パン 氏

顧客からインターネットを経由して送られる3D CADデータを基に、独自のデジタル・マニュファクチャリング・システムを活用し、射出成形や切削加工によるプロトタイプや小ロット生産をオンデマンドで受託製造するプロトラブズ。見積りが顧客に届くまで平均3時間、切削加工なら標準納期3日、射出成形でも標準で10日、最短ならいずれも1日という、これまでにない超短納期が同社最大の特長だ。この競争力を武器に、1999年米国ミネソタ州での創業以来、現在ではイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど世界8ヶ国でビジネスを展開する、急成長を遂げるグローバル企業である。

同社が日本進出を決めたのは、リーマン・ショック直後の2008年のこと。翌2009年には、神奈川県海老名市に約1,000㎡の倉庫兼作業場を確保し、わずか6名で事業をスタートさせた。海老名に拠点を構えたのは、人材確保の観点から東京や横浜からの通勤圏であることと、ファシリティコストが、都心のビジネス街ほど高額ではないこと。加えて、製造装置が設置できる工場エリアも含めて、会社全体が1つの場所に集まれるだけの広さがあることが条件だった。

「当社のビジネスモデルからみて、顧客と電話やメールで接するフロントエンドの社員と、実際の製造作業を行うバックエンドの社員がお互いに近くにいることが、時間短縮や作業効率向上の点から絶対条件なのです」。そう語るのは、同社社長で工学博士でもあるトーマス パン氏である。

事業開始3年目の2012年には、業務拡張により手狭になったことから約3,000㎡の大和市の賃貸倉庫スペースに移転。中央林
間の駅から徒歩15分ほどにある2階建の倉庫を1棟借りし、引き合いの多くなってきていた顧客向けの会議室や、必要な内装を施したオフィスも併設された。

多大なコストをかけて構築した大和市の施設であったが、急速に成長を遂げる企業の宿命とでも言おうか、同拠点もわずか数年で手狭になってしまう。2015年には製造装置と人員スペースが足りなくなることが明確になり、拡張移転を決意し適切な施設を探し始め、翌2016年に座間市にある「プロロジスパーク座間2」への移転を実施した。現在は、この約9,000㎡のスペースで、オフィスも合わせて90名近い社員が働いている。

拠点構築として、今回、物流施設を選択した理由。その解答は、「成長スピード」と「スペースニーズ」とのバランスにあるとパン社長は語る。

同社は現在、国内に2,300社以上の顧客を抱え、年間4 5,000以上の切削加工パーツと1,500以上の射出成形の金型を生産できるキャパシティを備えている。一方、2010年から15年までの5年間で、同社の事業規模は10倍以上に成長。国内では同様のビジネスモデルを有する企業がほとんどないだけに、今後も成長は続くことは想像に難くない。この成長に伴い、機械設備も当然ながら増大している。同社の製品はほぼ100%自社内で製作されるため、成長に比例したスペースが必要となる。仮に自社で土地を購入して工場を建設すると、最低でも3年はかかってしまうが、同社の成長スピードを考えると、その間にも必要とされるスペースが足りなくなるのは明らかだ。従って、既存の施設にできるだけ早く入居することが、拠点構築の必要条件だといえる。

もちろん、移転先の選定には、既存の空き工場なども選択肢に入っていた。しかし、候補に挙がる1970~80年代に建てられた工場群は、その時代の企業ニーズに合った仕様に作り込まれており、また、柱が太くて大きく、スパンが狭いものがほとんど。そのため、大型装置の設置に自由度がなく、スムーズな動線通路が取れないといった不都合が生じる。納期の短さが同社の競争優位性であることを考えると、工場の効率性は極めて重要なポイントの1つ。このような工場跡では、同社の求める理想の拠点を構築することは不可能だった。

「当社では、事業の拡大が生産の効率化に支障を来さないよう、3ヶ月に1度、成長による変化に合わせた人員や機材の配置変更の検討を行っています。さらに、新設備の導入や新規事業の立ち上げを考えると、レイアウトの自由度が高いことが絶対条件なのです。また、これまで2度の移転を経験しましたが、その度に多額のコストだけでなく、多くの時間と労力が必要でした。ですが、これらは本来ならば本業にかけたいところであり、できるだけ移転はしたくないというのが本音です。その意味で、今後の成長とレイアウトの自由度を考え合わせると、必然的に余裕を持ったスペースの確保が必要でした。それを実現できる唯一の選択肢が大型物流施設だったのです。ここで働く社員のため、食堂などのファシリティ面が充実しているのも、大きなメリットといえました」(パン氏)。

もちろん、大和市の施設をそのまま残しながら、新規の施設に分散するというオプションもあった。だが、同社が目指す第四次産業革命、つまり従来の大量生産の自動化という第三次革命を超越し、フロントエンドからバックエンド(生産サイド)までが一体化したスピード感のある事業形態を実現するには、こうした集約施設が必要なのである。現在賃借している9,000㎡のうち、1,200㎡はオフィスとして作り込まれており、現在の3倍の人員が入れるスペースがある。生産スペースも同様に余裕があり、今後しばらくはスペース不足に悩まされることはないだろう。

倉庫を工場やオフィスとして使用する。それは一般的な移転のように単純ではない。スケジュールやコスト管理の他にも、クリアすべき課題が多数存在する。その1つが法令や市の条例などによる制約である。3,000㎡以上を工場用途とするために、工場立地法の届出や、建築基準法や異種用途区画、避難安全検証などについて、所轄行政への確認や協議が必要となる。また、消防法における火災報知機や消火設備、誘導灯の設置、壁の防燃加工に伴う工事、製造部材である合成樹脂の保管に伴う危険物や指定可燃物に対する規制もある。また、マルチテナント型施設のため、騒音や振動、臭気などについて、他テナントへの配慮も重要だ。さらには、施設そのものの設備や能力の確認にも神経を使う。例えば、電力量は同社にとって生命線であるが、仮に当初は大丈夫でも、将来的に新たな装置を導入できる余力がなければ事業計画は頓挫することになるからだ。結果的に、同社では自社専用のキュービクルを倉庫内に別途防火区画化した電気室に設置し、特別高圧電流をプロロジスのキュービクル経由で引き込むことで解決した。こうした設備を設置するにしても、事前にその導入が可能なのか否か、詳細に確認しておかなければならない。その他、装置を設置する床面の耐荷重量や給排水設備、換気や冷暖房設備など、工場用途ならではの確認すべき項目が山ほどある。

「当社としては、施設に工場を構築できることが確定しなければ、賃貸借契約は結べません。契約前に課題をチェックしてもらわなければならない点、また、それと並行して行政への申請やチェックを急ぎ進めなければならない点が、今回の移転で最も難しかったことだと思います。要件がクリアできないため入居できない、というリスクを徹底して排除するため、1つひとつ丁寧に対応する必要がありました」(パン氏)。

このような数多の課題を約1年間かけてクリアにし、2016年8月、無事に移転が完了した。工場とオフィスの同時移転で、しかも35台ものマシニングセンターと11台もの射出成形機などを順次旧工場でセットオフし、新工場へ移動、セットアップして使える状態に調整していくのだから、その苦労は計り知れない。しかも、クライアントへの影響を最小限に抑えるため、移転をお盆の時期に重ね、休業は3営業日だけで済ませたという。

今回の拠点構築で目指したのは、オフィスとできるだけ同じ環境で働けるスマートファクトリーを作ること。匂いがない、綺麗な床面や整理整頓された生産スペースの実現だった。

「7億円を投資した今回の移転プロジェクトですが、成功した背景にはまず、施設オーナーであるプロロジスが、契約前から後まで、手間を惜しまず協力してくれたこと。そして、CBREが難しい案件にもかかわらず貸し手と借り手双方の間に立ち、中立的な立場で状況を判断し、施設スペックから法規制の管理までも詳細に確認・調整してくれたところが大きいといえます」(パン氏)。

同社では、従来の射出成形と切削加工に加え、来年度以降をめどに、米国ではすでに実現している3Dプリンティングの導入も決定している。「巨額の投資をどう活かすかはこれからが勝負。将来的には11万6000㎡に及ぶこの『プロロジスパーク座間2』の施設のすべてを、当社が使えるようになりたいですね(笑)」と、冗談めかして語るパン氏だが、その話が実現する日が来るのは、そう遠い未来ではないかもしれない。

プロジェクト概要

プロトラブズ合同会社
企業名 プロトラブズ合同会社
URL www.protolabs.co.jp
施 設 射出成形、CNC切削加工、試作・小ロット生産の本社・工場
所在地 神奈川県座間市広野台2-10-8 プロロジスパーク座間2
面 積 約9,000㎡
人 員 84名(2016年12月末時点)
移転時期 2016年8月
CBRE業務 物流施設への工場の移転仲介