特殊性が高い医療機器物流施設の構築。ハイブリッド型マルチテナントでコスト削減を実現。―後編

ケーススタディ
更新日 : 2018年01月21日掲載日 : 2017年04月11日
倉庫

次に、医療機器物流施設に求められる設備や機能を見てみましょう。先にも述べたとおり、薬機法の規定により、製造過程の製品と出荷可否判定後の商品を分けるために、製造エリアと販売エリアに分けて届け出る必要があります。

また、破損、汚損、リコール対象品等の、いわゆる不適合商品を物理的に隔離できる、施錠可能な隔離エリアも設けなければなりません。可燃物や危険薬物なども、特殊な保管が必要なのは言うまでもありません。さらに3PL事業者のセンターであれば、出荷判定のために常駐するメーカー従業員のためのスペースの確保も必要でしょう。

これは特殊な例ですが、画像診断機器のような高額商品だけでなく、メスやカテーテルなどの手術用品などを、販売でなくレンタルとして提供する企業もあります。こうした商品は、使用後にはもちろん、病院内で簡単な洗浄は行われますが、倉庫に戻ってから入庫→保管→出庫→返品→検品→洗浄→滅菌→検査→保管のサイクルが繰り返されることになります。そのため、こうした業種の倉庫では洗浄室や滅菌室、そして水が使えることなどが必要不可欠な設備になります。余談ですが、こうした倉庫で働く際には、万一のリスクを考慮しての予防接種が必須となっています。

また、高額商品を扱う医療機器メーカーの施設を中心に広まっているのが、トレーニングルームです。これは、社内はもとより、実際に導入してもらう病院関係者向けのサービスとして、デモンストレーションを兼ねて研修ができるスペースで、倉庫に隣接して併設するケースが増えています。そのほか通電テストや、ペースメーカーの初期設定などに用いる検査スペースを確保する例もあります。

倉庫の出入口には、外気を遮断するために、冷蔵倉庫に見られるようなクリーンルーム、前室、シートシャッターを設けています。そのほか医薬品と同様に、温湿度管理と自家発電機の設置も不可欠となっています。また運用面ではペストコントロールが重要で、専用業者に定期的に依頼して、防虫防鼠対策を施し、温度管理とともに、書面に記録を残しておくことが求められています。

ここまで、医療機器物流施設におけるオペレーションと、それに伴って求められる設備について説明してきましたが、これだけでもその難しさがお分かりいただけると思います。ですが、拠点構築を阻害する要因はほかにもあります。その1つが立地です。

意外に思われるかもしれませんが、医療機器の中には緊急性が高い商品も多く、そのために重要視されるのが配送リードタイムなのです。そこで、戦略的な立地に拠点を設けることが必要になってきます。具体的には、近場であれば赤帽やバイク便のほか、顧客サービスを兼ねて営業マンが直接、届けるケースも多々あります。しかも24時間稼働が基本ですから、通勤も含めて公共交通機関へのアクセスも重要です。また、遠方に航空便で配送することを考慮して、空港に近いことも求められます。そのため首都圏では、賃料が高くとも、あえて湾岸部や空港付近で、時間ギリギリまで依頼に対応できるよう配送業者の拠点が近くにある、いわゆる物流適地に施設を設けることが多いのです。また、BCPの観点から、複数拠点を構築することも当然と考えられています。もちろん、緊急性が低い商品であれば、一般的には地震や津波に強く、保険も安い内陸部に構築するケースが多くなっています。

こうした拠点構築を困難にしている大きな課題が、近年の医療機器業界を取り巻く環境の変化にあります。医薬品では、ジェネリック医薬品の登場で価格競争が激化していることが知られていますが、医療機器においても同様に、アジア生産の低価格商品の登場により、コストの大幅な見直しが図られている状況です。また、こうした状況を打破するために、近年では以前にも増してM&Aが盛んになり、中核事業の強化、あるいは不採算事業の切り離しが行われています。これに伴い、業務の再編や製造拠点の集約、および物流拠点の集約・統合が必要とされています。

つまり、これまで多額の予算を割いて土地の取得から計画、開発を経て、サプライチェーンも含めた複雑な物流工程を構築しても、母体となる会社が、いつM&Aによって再編に追い込まれるか分からないのです。実際、M&Aを実施した企業の中には、ERPのような基幹システムや物流施設といった多額の設備投資を要した部分の統合に時間がかかり、並行して運用しているケースも少なくありません。また、商品分野が多岐にわたる企業では、いつ部門の切り離しが行われても対応できるように、社内を商品ごとの事業部制にし、それぞれ個別にサプライチェーンを構築し、倉庫を持っているケースが多いのです。このような状況下で物流コストの削減を実現するのが容易でないことは言うまでもないでしょう。

ハイブリッドのマルチテナント型倉庫へ

ハイブリッドマルチテナント型倉庫へ

しかし裏を返せば、短期間に、しかも低コストで物流施設の再構築を実現できれば、シナジー効果が生まれやすく、コスト削減に近づく早道となることは間違いありません。では、具体的にどのように構築するかですが、先にも述べたとおり、自社開発は難しいでしょう。必要とする設備を考えればBTSが望ましいのですが、契約期間が長いというデメリットがあり、M&Aが多い医療機器業界においては、長期的な戦略が立てづらいという側面があります。

そう考えると、最も現実的と言えるのがマルチテナント型の物流施設の選択です。すでに器が出来上がっているマルチテナント型物流施設であれば、拠点構築まで期間を要しないでしょうし、契約期間も短く、事業環境の変化にもフレキシブルに対応することができます。事実、最近ではマルチテナント型施設に入居する医療機器メーカーが増えています。反面、入居時の造作工事や退去時の原状回復工事の費用がかさんでしまうというデメリットがあり、これをいかに軽減できるかが最大のポイントになります。

当社はこれまで、多くの物流施設デベロッパーと独自のネットワークを築いてきました。そしてそのつながりを活かして、多くの医療機器向け施設をご紹介してきた実績があります。その経験から、テナント企業にとっても、またデベロッパーや倉庫オーナーにとってもメリットのある、ハイブリッド型施設の提案を始めています。具体的には、空調、自家発電設備、セキュリティ、防塵床など、最低限必要な設備を完備しており、なおかつ医療機器倉庫特有の滅菌室、洗浄室、クリーンルームなどの後付け工事が、比較的容易にできる物流施設の開発です。

施設完成後に追加の工事を行うと、多額の費用がかかりますが、例えば非常用電源の引き込みを、A・B工事の一環として行っておけば、コストが抑えられます。こうした施設を開発しておけば、倉庫オーナーにとっては差別化策としてテナント誘致がしやすくなり、テナントにとっては、賃料は少し高めになっても、イニシャルコストは大幅に軽減できることになります。また、仮に退去することになっても、同業種や食品系のテナントを誘致することで、原状回復費用の軽減も可能になります。汎用性の高いマルチテナントとBTS、それぞれのメリットを活かした医療機器物流施設。これらは、いわば「ハイブリッド・メディカル・マルチテナント」と呼べるものではないでしょうか。

医療機器物流施設に係わるCBREの新サービス

医療機器物流施設に係わるCBREの新サービス

さらに当社では、数多くのデベロッパーとのネットワークに加え、新設倉庫内のオペレーションの構築に関する提案も行っています。つまり、リアルな開発物件情報に基づいた、最適なコンサルティングが可能なのです。繰り返しとなりますが、競争力維持の観点でも集約統合効果による固定費の削減や、SLA(サービスレベル)の向上は重要なテーマとなっています。現状の課題や、そもそも現在の拠点配置に改善の余地がないか、といった懸念は、どの企業もお持ちなのではないでしょうか。当社では、今後も、デベロッパーや倉庫オーナー、そしてテナント企業にとってのWin - Winの関係構築に寄与し続けていきたいと考えています。医療機器物流、またはヘルスケアに係る関係者の方には、気軽に当社にご相談いただき、物流改善のきっかけにしていただければ幸いです。