“売らないショールーム”を東京・南青山にオープン
今年2月、東京港区・南青山のオフィスビルの1・2階にオープンしたマツダの直営ショールーム「MAZDA TRANS AOYAMA(マツダトランスアオヤマ)」。店舗の奥で存在感を放つ1台の展示車両と、2階のガラス窓に飾られたマツダのエンブレムから、ここがマツダのショールームであることは想像がつく。ただし、入り口にはカフェカウンターが併設され、モダンな椅子やソファが置かれた開放的な空間は、まるでおしゃれな喫茶店のような雰囲気を醸し出しており、一般的なクルマのショールームとは随分と趣が異なる。
同社が大阪・梅田に2016年から構えるもう一つの直営ショールーム「MAZDA BRAND SPACE OSAKA」は、どちらかといえば私たちが想像する一般的なクルマのショールームと言えよう。マツダのものづくりやクルマへのこだわりなど、クルマや技術にフォーカスを当てたコミュニケーションが行われており、ターゲットはマツダファンであることは明白だ。
一方、MAZDA TRANS AOYAMAはそうではない。MAZDA TRANS AOYAMAブランドマネージャーの石田陽子氏は、「この店舗は、これまでマツダと接点がなかった方や、クルマに特にご関心のないような方でも気軽に入っていただき、マツダブランドに触れていただくための場所です」と、そのコンセプトを話す。クルマを前面に押し出さない、いわば“売らないショールーム”というわけだ。しかも、「マツダロータリー原宿」が閉鎖されて以来、32年ぶりに東京に誕生したマツダのブランド体感施設なのである。
日本市場でのプレゼンス強化を狙う
マツダが“売らない店舗”を作ったのはなぜか。その背景として、同社コーポレートコミュニケーション本部メディアリレーション部メディアリレーショングループ主幹の宇多村眞司氏は、自動車メーカーが直面する厳しい環境に言及し、「電動化に向かって世の中が大きく変化する中、既存のお客様とは違う層にまでブランドの訴求を広げる必要がある」と話す。加えて、日本市場でのプレゼンス強化も喫緊の課題だったという。「マツダにとって日本市場はアメリカに次ぐ第二の市場で、ブランド価値経営を打ち出した2013年以降、商品のデザイン一新や販売店・ショールームのデザイン統一などに取り組み、上向いた時期がありましたが、最近の国内市場の販売シェアは下降傾向にあります」(宇多村氏)。
そのような折、2023年に社長兼CEOに就任したのが、アメリカ現地法人でブランド価値経営を実践し、同市場でマツダブランドを確立した立役者である毛籠勝弘氏だった。国内での重要市場である首都圏を中心に、マツダのプレゼンス向上を目指す施策の一環として、毛籠社長の指揮のもと、ブランド体感拠点となる新施設の開設に向けて具体的に動き始めたのである。
新施設の立地は、複数の候補から青山に決まった。「青山は、あらゆるブランドの旗艦店が立ち並ぶ文化や情報の発信地。私たちがこれまで接点のなかった方々との出会いの場として最適であると判断しました」と石田氏は話す。
若手メンバー中心のプロジェクト、マツダデザイン本部が内装を監修
2024年1月には、広島本社で新施設開設に向けたプロジェクトがスタートした。中心となったのは、国内営業本部が管轄するブランドエンゲージメントチーム。マツダのファンの輪を広げていくのがこのチームの使命である。このチームに手を挙げた若手を中心とするメンバーに、東京から石田氏を含むメンバーも加わり、プロジェクトは進められていった。「いくつものブランドショールームを見学するために広島からも東京まで足を延ばし、自分たちのブランド施設をどのような場所にしたいか考えていきました。誰もが入りやすいようにと、カフェ併設のアイデアもその中で出てきたものです」(石田氏)。
店舗の内装を監修したのは、マツダ車のデザインを手掛けるデザイン本部である。店内に設置されたテーブルや椅子のほか、店内で販売されているマツダグッズもデザイン本部が関わっている。また、店内の柱にボディーカラーやインテリアの色見本をさり気なく飾ったり、クッションの裏側にマツダ車のシートの表皮を使用したりしたのも、カーデザイナーならではのマツダらしさの表現と言える。そうした遊び心を施設全体にちりばめたことで、マツダファンであろうとなかろうと訪れる人の感性を刺激し、さらにはマツダファンもクスッと喜ばせるようなブランド体感の提供に一役買っている。
同社のカーデザイナーが空間デザインなどクルマ以外のブランドデザインも開発・監修するのは、クルマをより魅力的に見せるためだという。「デザイン本部が店舗デザインを担当したのは、2013年に改装された東京の販売店ショールームが最初でした。今ではモーターショーでのクルマの見せ方から照明の当て方まですべて担当しています。カーデザインだけでなく、ブランドデザインを内製化しているのも私どもの独自性かもしれません」(宇多村氏)。
マツダらしさをさり気なく演出、人中心に発信するブランド体感施設
では、ここからは、完成したMAZDA TRANS AOYAMAを詳しく見ていこう。まず名前の由来だが、「TRANS」には「変える、越える」という意味があり、「この場所で多様な価値観に触れることで、訪れた人が前向きに変わる、そのきっかけになる場所でありたい」という意味が込められているという。これはマツダの企業理念である「前向きに今日生きる人の輪を広げる」ともつながっている。「企業理念への共感を通じて、マツダブランドを体感できる空間を提供できれば」と石田氏は話す。
誰もが入りやすい場所にするため、ガラス張りでオープンな空間となっている。1階入り口横には、広島県の宮島に本拠を置くコーヒー専門店「伊都岐珈琲」を併設。カフェのスイーツメニューには、マツダの「ソウルレッドクリスタルメタリック」をイメージしたチーズケーキや、ロータリーエンジンを彷彿とさせるフィナンシェなどを用意し、マツダらしさをさり気なく演出している。
常設の車両展示では、「訪れる人の新しい発想や驚きにつながれば」(石田氏)という思いから、市販車だけでなく、見る人を魅了するようなコンセプトカーや歴代のマツダ車も展示している。他にマツダ車の歴史を振り返るミニカー展示や、都心をオープンカーでドライブできるロードスターの試乗体験も行っている。
また、クルマに限らない幅広いテーマでワークショップやイベント、期間限定のギャラリー展示も行っている。例えば広島の企業とコラボした「広島マルシェ」を開催したり、廃棄物からアート作品を生み出すアーティストの作品を展示したりした。「人中心であるところがマツダのブランドらしさ。今後も様々なことに挑戦する方々や企業と協力して、生き生きとした体験をご提供していきたい」と石田氏は話す。
この施設をつくり上げていくうえで大変だったこととして、「マツダやクルマのことをどれくらい表現するのか、メンバー間でのベクトル合わせが難しかった」と石田氏は振り返る。そんな時に指針となったのが、「お客様のベネフィットを一番に考えてほしい」という毛籠社長の言葉だったという。「いろんな意見が出て軸がブレそうになる時は、この場所で誰にどのような思いになっていただきたいかという目的に立ち返りながら、時には社長と一緒にミーティングしながら進めていきました」(石田氏)。
自動車産業を取り巻く環境が激変する中、マツダが取り組むのは電動化である。2023年には、独自技術であるロータリーエンジンを発電に利用するプラグインハイブリッド車を発売した。「現在、お客様のニーズにマッチする電動化商品のラインアップ拡充を準備しており、2027年頃には市場導入を予定しています」と宇多村氏。そこをにらみながら、「マツダがブランドとして選んでいただけるブランドになるために、マツダのいろんな側面をご覧いただき、体験していただきたい。MAZDA TRANS AOYAMAを幅広い層の方々とのコミュニケーションの場にしていきたいと考えています」と抱負を語った。
| 企業名 | マツダ株式会社 |
|---|---|
| 施設名 | MAZDA TRANS AOYAMA |
| 所在地 | 東京都港区南青山5-6-19 |
| アクセス | 東京メトロ表参道駅 B1出口 徒歩1分 |
| 営業時間 | 8:30 AM〜6:30 PM (8:30 AM〜10:00 AM 1Fカフェのみ営業) |
| 定休日 | 月曜日 |
| オープン | 2025年2月6日 |
| CBRE業務 | 施設賃貸借仲介業務 |











