本連載ではこれまで、「組織診断パルスサーベイ」の開発者・齊藤敦子シニアディレクターに、本ソリューションの設計思想をはじめ、診断結果をオフィスコンセプト策定に活用し、具体的なオフィスの要件へ落とし込むプロセスなどを聞いてきました。では、そうして描かれた「理想のオフィス像」は、実際の物件マーケットの中で、どこまで現実のものになるのでしょうか?
最終回となる第3回の話題は、戦略と現実が交差するオフィス移転の最前線。お話を伺うのは、オフィスの賃貸仲介に長年携わり、要件定義から物件選定、契約、構築までを一気通貫で支援してきた蒲池直行アソシエイトディレクターです。きわめてタイトなオフィスマーケットの実情をふまえながら、サーベイが現場でどのように効果を発揮するのかを、実務の手触りとともに語ってもらいました。

蒲池 直行(かまち なおたか)
シービーアールイー株式会社
アドバイザリーサービス|リーシング
オフィス
アソシエイトディレクター
※役職名は記事公開時のもの
「組織診断パルスサーベイ」を貴社でも実施してみませんか?
「物件情報を握る」優位はかつての話。仲介が“コンサル”になった必然
―― 第1回・第2回では、「組織診断パルスサーベイ」の思想とコンセプト策定の方法論を、齊藤シニアディレクターに聞きました。今日はそれを現場で活用する立場から伺います。まず、この十数年でオフィスの賃貸仲介という仕事の中身はどう変わりましたか。
端的に言えば、情報提供そのものが価値だった時代から、課題解決そのものが価値となる時代へ変化した、ということだと思います。かつては、インターネットで検索しても出てこない空室情報をいち早く押さえ、タイムリーにお届けすること自体が価値でした。しかし今は、空室情報そのものはある程度オープンになっています。お客様が本当に知りたいのは「どの空室か」ではなく、「出社率をこの水準に持っていくには、どれだけの面積を、どこに構えるべきか」「それが採用にどう響くか」といった、もう一段上流の問いなんです。
ですから我々も、単に物件をお出しする立場ではなく、今のマーケットの構造を踏まえて「御社のオフィスはこうあるべきではないか」という仮説まで持って経営層と対話を行います。仲介というより、経営戦略の一部を一緒に考えるコンサルティングに近づいてきた、というのが実感です。
―― 第2回で齊藤シニアディレクターは「経営層・人事・現場で関心事が食い違う」と語っていました。そのような事例は数多いですか。
数え切れないほどありますよ(笑)。例えば、出社一つとっても、多くの経営層は出社によるコミュニケーション機会を重視する傾向があります。一方、現場の従業員の方々は「在宅でできる仕事をなぜ通勤して?」と思うことが往々にしてあります。しかもこれは好き嫌いの話に留まらず、在宅制度の有無が採用の応募数に直結する、という採用市場の現実とも絡んでいます。
コロナ禍を在宅勤務で乗り切った経験がある方であれば、「コミュニケーションはリモートで十分」と思う人も多いでしょう。しかし、経営層が対面での社内コミュニケーションにこだわるのには理由があります。第一に、リモートワークは、これまでに積み上げてきた人間関係・信頼に依るところが大きいこと。関連して第二に、これから事業を伸ばす局面においては、新しく加わった人の知見を引き出したり、偶発的な相談から次の一手が生まれたりするような、コミュニケーションしやすい場が必要な点が挙げられます。
経営層はそれを肌で感じているのに、現場には伝わっていない。そして総務のご担当者は、その板挟みのど真ん中にいます。仮に増員が続いたとして、フロア面積が足りないことは可視化できても「拡げるのか、分散させるのか、集約するのか」という経営判断までは代われない。ここが噛み合わないままだと、効果的なオフィスの運用は必ずどこかで止まります。だからこそ、経営と現場の距離をファクトで測り、共通の土台をつくるところから始める必要がある。パルスサーベイの価値は、まさにそこにあると思っています。

要件は定まった。だが、それに「見合う箱」がマーケットにあるとは限らない
―― そこでパルスサーベイが活きるわけですね。第2回で齊藤シニアディレクターが語った「コンセプト」から「ハイレベルなオフィス要件」を定めていくという手順は、実に理想的な流れです。しかし仲介の現場では要件を定めても、それに見合う物件が今のマーケットに存在するとは限りませんよね。
まさにそこが、現場の課題です。サーベイやコンセプト策定で細かな要件を描けたとしても、それが計画止まりでは意味がない。特に今は東京都心部をはじめ、主要なビジネスエリアの空室がきわめてタイトで、賃料相場も上昇基調です。「フロアプレートはこの規模、立地はこのエリア、入居時期はこの時期」と条件を重ねていくほど、それに見合う空室は急速に減っていきます。
だからこそ、その理想を現実に着地させる工程が、我々の本領と言えます。表に出ている空室のほかにも、まだ募集化されていない水面下の情報や、竣工前のプロジェクト、オーナーとのリレーションを総動員して、要件に近いオフィスを探し出す。サーベイで「移転する理由」「求めるオフィス像」が明確になっているからこそ、こちらも確信を持ってオーナーと交渉できますし、借主にとって優先すべき条件と調整可能な条件の見極めも的確になります。
―― 「動く」と決める前に、そもそも移転・館内増床・リニューアル・分散のどれを選ぶか、という意思決定もあります。ここはどう整理されますか。
これは本当にケースバイケースで、安易に「移転ありき」で進めるのは、おすすめできません。移転は文化を一気に刷新できる強力な手段ですが、当然コストは大きい。一方で、現オフィスに入居したままでのリニューアル工事はコストを抑えられますが、工事期間中はどうしても社内コミュニケーションが分断されやすく、生産性も一時的に落ちます。そのほかにも、館内で増床するのか、本社は据え置いて足りない機能をサテライトに分散するのか――選択肢ごとに、コスト・組織への影響・スピードのトレードオフがあるわけです。
正直に申し上げると、ヒアリングを進めた結果「今は動くべきではない」とお伝えすることもあります。賃料が上がっている局面では、なおさらです。それは目先の仲介手数料にはつながりませんが、お客様とは何年、何十年というお付き合いです。単発の取引としてではなく、信頼を前提に「今やるべきか、待つべきか」まで踏み込んで助言する。結局それが、長い目で見て一番ご評価いただける関わり方だと思っています。
―― パルスサーベイの実施タイミングも、その意思決定に応じて変わってくると。
その通りです。移転がすでに固まっている会社なら、物件選定と同時並行でパルスサーベイを実施します。「これからどうするか」を決める段階なら、コンセプトづくりと並走させる。あるいは、移転して数年が経ち、「なんとなく満足度が落ちてきた」という既存オフィスに対して、いわば組織の“健康診断”として実施し、課題がどこにあるのかを探る、という使い方もある。何も決まっていないが床だけは足りない、という会社にとっては、最初の足がかりとしても機能します。どの段階で使っても機能するのは、このサーベイが「満足していますか?」という主観ではなく、「どんな事象が起きているか」というファクトを問う設計になっているからでしょう。主観的な意見を集めても「なぜ不満なのか?」をさらに突き詰める必要がありますが、ファクトベースの結果であれば、あらゆる場面で対策を講じやすい。そのうえ回答の手間が小さく、結果のフィードバックも速い。タイトな移転スケジュールの中にも無理なく組み込めます。また、無償で実施可能なプログラムとして提供しています。まだ顕在化していないニーズを掘り起こす入口としても、社内へ提案しやすいツールです。
「組織診断パルスサーベイ」“使いどころ”4パターン
移転がすでに確定
物件選定と同時並行で実施する
これから方針を決める
コンセプトづくりと並走させる
移転後、数年が経過
組織の”健康診断”として課題を探る
床は足りないが未定
最初の足がかりとして現在地を測る
経営の「本音」を引き出し、オフィスの要件へ落とし込む
―― 実際の活用事例を、差し支えのない範囲で教えてください。
あるクライアントの事例ですが、純粋にフロア面積が足りず、一定規模の増床自体はすでに決定事項という企業様がいらっしゃいました。そこでは経営層から総務へ「会議室が足りないから補充する、という発想で進めないでほしい。将来を見据えて、経営層だけの判断で進めるのではなく、全社の声を踏まえたうえで、自社のオフィスが真にあるべき姿を描いてもらいたい」という指示が出ていた。こうした経緯から「社内の声を聞ける仕組みはないか」と、我々にご相談をしてくださったんです。
単に主観的な意見を募る社内アンケートだけであれば、自社でもある程度できるでしょう。一方、パルスサーベイであれば、組織の持続的成長に必要なファクターに基づいて、ハード(オフィス環境)とソフト(組織・人)の両面から現在地を可視化し、その後のオフィスコンセプト策定により、オフィスのあるべき姿を描くことまでできる。また、クライアントが我々に期待していたことには、コストやスケジュール、効果の検証なども踏まえ、どう現実的に実施するかもありました。そこで我々がご提案したのは、サーベイで組織の現在地を確かめた上で、その結果をもとに、増床によって確保する面積を活用し新たなオフィスを“パイロット”として構築することです。つまり理想のオフィスを、先行して一部実装するわけですね。そして、その成否を将来の本社リニューアルに活かすところまで見据えたプランを描きました。こうしたプロジェクトの組み立てができるのは、組織診断から物件選定、構築までを一本の線で見られるCBREだからこそだと思います。
―― 「社内の声」と言えば、前回のインタビューで話題に上った印象的なプロセスとして、経営層へのインタビューや従業員とのワークショップを実施される点があります。
そこは現場として、非常に手応えを感じている部分です。特に経営層インタビューには、私と齊藤さんのほかにも、移転プロジェクトの事務局の方にも入っていただく。すると、経営層が口にする言葉が、普段社内で従業員へ語られているものとまるで違う、ということが頻繁に起きます。事務局の方が「あの役員のこういう考えは初めて聞いた」と驚かれるんです。
これは、外部の第三者が聞き手になるメリットとも言えます。社内のご担当者が役員に質問しても、どうしても「指示の確認」になってしまい、本音までは出てこない。我々は中期経営計画や統合報告書といった開示情報を読み込んだうえで、「この方針の背景には、こういう狙いがあるのではないですか」と踏み込めます。すると、外向けにIRでは発信しているのに社内には落とし込めていなかった経営の意図が、立ち上がってくる。役員間では向いている方向が揃っていても、社員がそこについてこられていない――この距離を、パルスサーベイによる客観的なデータと、経営の生の声の両面から埋めていくわけです。
―― 一方で、従業員からは「席が足りない」「設備が古い」と要望も当然でてきます。それを要件としてどう捌くかも、腕の見せどころでは。
そうですね。すべての声を満たすのは現実には不可能です。大事なのは、寄せられる数多くの要望を、経営の意図という“軸”に照らして優先順位づけすること。サーベイの結果が客観的なスコアとして手元にあると、「この要望は軸に合っているから取り込む」「これは今回、見送る」という判断を、感覚ではなく根拠を持って下せる。議論が散らかったときに立ち返れる原点になります。これは要件定義の精度を上げ、後工程の手戻りを減らすことにも、そのままつながります。

契約は続く。だから、関係も続く
―― 「移転して終わりではない」という点は、第2回でも、パルスサーベイで組織を定点観測するという文脈で出てきました。仲介の実務の側からも、移転後もクライアントを伴走支援していくことは重要なのでしょうか。
おっしゃる通りです。むしろ契約の構造上、関係は自ずと続かざるを得ない。今は定期借家契約が主流になりつつあり、期間はおおむね3〜5年、長くて10年程度。満了の半年から1年前には、貸主から契約終了の通知が来る。足元のマーケット環境では、賃料増額の協議となるケースが増えています。そこで「この改定幅は妥当か」「再契約に応じるべきか」というご相談を、必ずいただきます。
ですから、移転して関係が終わるのではなく、契約のサイクルごとに、相場感をふまえた助言をする立場でずっと伴走するわけです。パルスサーベイも同じで、移転後に再実施すればスコアの推移から「あの移転は正解だったのか」を検証できますし、定点観測を重ねることで組織の変化そのものを追いかけられる。“組織・人”の側面からはサーベイの定点観測で、契約・コストの側面からは仲介の実務で、それぞれ継続的にサポートしていく。この両輪が回って初めて、本当の意味でお客様の不動産戦略に並走できている、と感じます。
―― パルスサーベイというソリューションにより、ソフト(組織・人)の視点を持ったことで、ご自身の提案はどう変わりましたか。
かつてはオフィスという“箱”そのものを提案する営業でした。上流で「移転する」と決まり、「では物件を」という順番です。今は逆で、「実はこういう課題があって」から始まる。たとえば「経営から出社率を3割から5割へ引き上げたいと言われたが、どう動けばいいか分からない」――そんな相談に、似た事例を示しつつ「まず従業員が何に不満を感じているか、可視化してみましょう」と返せる。一段上のレイヤーで対話ができるようになった、ということですね。
物件ありきで「ここへ移りましょう」と言うのではなく、その会社がどうありたいかを一緒に考える。だからこそ「蒲池さんがいてくれてよかった」と言っていただける。10数年前は、物件情報の提供や条件交渉が業務の中心でしたが、今は確かにコンサルタントの領域へと軸足が移っています。
―― 最後に、これからオフィス移転を考える企業へメッセージをお願いします。
経営層は、ロジカルでなければ動きません。そして、客観的なデータは意思決定の重要な判断材料になります。「現場が会議室不足を訴えている」だけでは「増やそう」とはならないが、「不満がこれだけ顕在化し、稼働率も妥当とされる水準を大きく超えている」とファクトで示せれば、議論は前に進みます。そしてそこから「では、今払っている賃料は相場に対して適正なのか」という、まさに我々の領域の話へと、自然につながっていく。
何から手をつけていいか分からない――そういう方こそ、まずは自社の「現在地」を測ることから始めてほしいですね。無償で実施可能なプログラムであり、社内に現状の課題を投げかける最初の一手として、これほど扱いやすいツールはないと思います。
オフィスづくりの現場では、無数の要望が飛び交います。そのすべてを満たすことはできなくても、「何を優先すべきか」の軸さえあれば、議論は前に進む。CBREの「組織診断パルスサーベイ」は、その揺るがない軸を、客観的なデータとして与えてくれます。意思決定に迷いをなくしたいとき、その出発点として本ソリューションをぜひご活用ください。
【資料ダウンロード】組織診断パルスサーベイ

本資料では、パルスサーベイの導入メリットや活用事例をわかりやすくまとめています。 ぜひダウンロードして、貴社の組織改善にお役立てください。
会員ログインいただくと、資料(PDF)を無料でダウンロードいただけます。