セットアップを軸にした収益性・資産価値向上の最前線
オフィス市場では今、「空間の質」が単なる設計の問題ではなく、収益性や資産価値に直結するテーマへと変化しています。働き方や価値観の多様化により、企業は従業員のウェルビーイングや生産性を重視するようになり、オフィス選定においても明確な判断軸を持つようになりました。
その結果、オフィスは単なる「入居する場所」ではなく、企業活動を支える経営インフラとして評価される時代になっています。実際の検討においても、「条件が合うか」だけでなく、「ここで働くイメージが持てるか」が意思決定に大きく影響しています。
さらに現在では、従業員の働きやすさやコミュニケーションの質も含めて評価されるため、空間に求められる役割自体が広がっています。その中で、共用ラウンジや貸会議室、テナント同士の交流を促す仕組みなど、専有部にとどまらないビル全体での価値提供が重要性を増しています。
本対談では、リーシングマネジメントの側面から物件のバリューアップを支援する塩見と、オフィス空間設計のプロである湯浅が、「セットアップオフィス」を軸に、空室対策を超えた戦略的バリューアップについて議論します。

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近年、ビルオーナーから寄せられるご相談には変化が見られますか?
塩見: 明確に変わってきています。これまでの「空室を埋めるための対策」から、現在は賃料を引き上げるための投資としての相談が増えています。
リノベーションやセットアップも、もはや対症療法ではありません。収益性と資産価値を高めるための戦略投資として位置づけられるケースが明らかに増えています。
実際の案件でも、「どう埋めるか」ではなく、「どのような価値を提供すれば賃料を上げられるか」を前提に議論するケースが増えています。リーシングの現場でも、テナントの判断軸は着実に変化しており、スピードやコストだけでなく、「使い勝手」や「働きやすさ」も含めた総合評価で選ばれるようになっています。
その結果、同じエリア・同じ賃料帯でも、空間設計や見せ方によって成約スピードに差が出るケースも増えてきています。
湯浅: 設計の現場でも、その変化はかなりはっきりしていますね。以前は「どう作るか」が中心でしたが、今は「誰が、どう使うか」を前提に「デザイン性だけではなく、スペースを作る目的も含めた空間」を考えることが求められています。
オフィスは見た目だけでなく、実際の業務やコミュニケーションの中で機能して初めて価値になります。現在は、設計そのものが価値を左右する要素の一つになっていると感じます。
セットアップオフィスの位置付けはどのように変化し、なぜ広がっているのでしょうか?
塩見: オーナーの視点で見ると、セットアップは周辺相場より高い賃料(=賃料プレミアム)を実現するための施策として明確に位置づけが変わっています。
テナント側は、初期費用と入居までの期間を短縮できること、退去時の原状回復工事が免除されるケースが多いことから、「すぐに使える空間」へのニーズの高まりがあります。さらに最近は、デザイン性の高い内装やラウンジなどが整っていることで、従業員満足度の向上や採用ブランディングに寄与する点も評価されるようになっています。
また、コワーキング市場の拡大も影響しています。そこから成長した企業にとっては、セットアップは自然な移行先となっています。
加えて、建築費や内装工事費の高騰も大きな要因です。テナントにとって内装投資のハードルが上がっているため、セットアップの合理性がさらに高まっています。
その結果、セットアップは稼働率と賃料水準の両方に寄与する施策として機能しています。実務的にも、意思決定のスピードや成約率に影響していると感じます。
湯浅: テナント側では、その価値がかなり明確ですね。 完成した状態を見て判断できることで、実際の利用イメージを持ちやすいのが大きなメリットです。
一方で、複数物件を比較する中で、「実際にどう使えるか」が重視されているため、設計の質がそのまま評価に直結しています。
例えば、動線や設備配置の違いによって、使いやすさは大きく変わります。その差が意思決定に直結するフェーズに入っていると感じます。
塩見: 今後は供給が増えることで、セットアップ同士の競争が進みます。 その中では、見た目だけでなく、耐久性や汎用性、運用性といった実質的な価値が重要になります。
セットアップオフィスは全てのオーナーが導入すべきでしょうか?
塩見: 物件ごとに投資効果を踏まえて判断すべき施策です。判断のポイントは、その投資によって競争優位を取れるかどうかにあります。加えて、セットアップはテナントの入れ替わりが比較的起こりやすい側面もあるため、一度決めて終わりではなく、入れ替えを前提に安定的に稼働を維持できるかどうかも重要なポイントです。
湯浅: 設計としても、「誰がどう利用できる空間か」が曖昧だと、どの企業にもフィットしない空間になってしまいます。
塩見: さらに重要なのは、投資として成立しているかという点です。賃料への反映や回収まで含めて設計しないと、バリューアップにはつながりません。

選ばれるセットアップオフィスにとって必要な設計視点は?
塩見: テナントは内見の場で、かなり短時間で意思決定の方向性を固めています。
その中で重要なのは、「この空間で業務が成立するかどうか」を直感的に判断できるか、つまり使ったときのリアリティがその場で伝わるかどうかです。
実際のリーシングでも、条件が同等の物件であっても、「働くイメージがすぐに湧くかどうか」で結果が大きく分かれるケースが多くあります。逆に言うと、そこが曖昧な空間は、その時点で選択肢から外れてしまうことも少なくありません。
つまり、見た目の良し悪しではなく、“使われる前提で設計されているか”がそのまま選定結果に直結すると考えています。
その上で重要なのは、「どのような企業をターゲットに、そのターゲットが好むにはどのようなオフィスを作るか」というターゲット設定そのものであり、ここが曖昧なままでは、どれだけ設計の完成度が高くても市場とのズレが生じてしまいます。実際ターゲット設定ができていない場合、見た目の質が高くてもリーシング成果に結びつかないケースも多く、やはりターゲットから逆算した設計であることが重要です。
湯浅: 設計の立場から見ても、そこは非常に難しくて面白い部分ですね。
想定するターゲット像を明確に持ちながら、その中で複数の企業に対応できる汎用性を保ちつつ無個性にならないバランスを取る必要があります。この汎用性と実用性のバランスがうまく取れていないと、「再利用できない」もしくは「働くイメージが湧かず選ばれない」という両極端な結果になります。
また、実際の使われ方を想定すると、動線が自然か、席配置に柔軟性があるか、日常業務にストレスがないか、といった細かな設計が効いてきます。こうした要素は図面だけでは分かりにくく、実際に空間として成立しているかどうかが重要ですね。
さらに、短期的な見た目だけでなく、数年後の入れ替えや再利用まで見据えた設計であることも欠かせません。
塩見: その点はリーシングでも非常に重要です。継続して使えるかどうかで、物件の収益構造は大きく変わります。
テナント退去時にそのまま次に繋げられるか、それとも作り直しになるかで、コストも空室期間も大きく変わります。その意味でも、設計は単発ではなく、運用や収益まで含めた一連の戦略として考えるべき領域だと思います。こうした継続的な収益を担保するうえでも、「どのターゲットに対して設計されているか」が明確であることは非常に重要なのです。
CBREのサービスを活用するメリットはありますか?
塩見: リーシングとデザインが一体である点です。
通常は内装設計とテナント募集が分断されがちですが、我々は最初から“決まる前提”で設計を組み立てることができます。
市場やテナントの意思決定プロセスを踏まえながら、賃料や成約につながる仕様を設計段階から組み込めるため、不要な投資を避けながら成果につなげやすいのが特徴です。
また、計画・設計・リーシングを一体で進めることで、途中の手戻りや方向転換を最小化できるため、スピードと投資効率の両立もしやすいと考えています。
湯浅: 設計の立場から見ても、この一体性は非常に大きいですね。
通常の設計では「理想的な空間」を起点に検討することが多いですが、リーシングと連携することで、「市場で実際に選ばれるライン」を前提に設計することができます。
その結果、過不足のない投資配分が可能になり、使いやすさと事業性が両立した現実的な空間に落とし込める点が価値だと感じています。
今後のセットアップオフィスマーケットはどうなっていくと考えていますか?
塩見: 市場は拡大する一方で、競争は確実に激化します。今後は、単にセットアップであること自体は差別化要素にならず、どのターゲットに対してどう勝つかという戦略が重要になります。
特に、エリアや物件特性ごとに「狙うべきテナント像」を明確にした上で、「どのレベルまで設計するのか」「どこまで投資するのか」を判断する必要があります。
つまり今後は、「つくること」ではなく、ポジショニングを踏まえた意思決定の精度が結果に直結する市場になっていくと見ています。
湯浅: 設計の観点でも、質の差がそのまま選定に影響する段階に入っていますね。今後は、単に整っている空間ではなく、「どの企業にとって使いやすいのか」がより明確に問われるようになります。
そのため、設計としてはデザイン性を保ちつつ、どこまでテナント側に柔軟性を持たせた利用を想定するか、それらの両立が重要になってくると感じています。
どこまで汎用化するか、どこで特徴を持たせるかという設計判断が、より重要になっていきそうです。
最後に、オーナーへのメッセージをお願いします
塩見: セットアップは手段であって目的ではありません。
重要なのは、誰にどの価値を提供し、それをどう収益につなげるかを設計することです。
市場環境が変化する中で、施策単体ではなく、物件全体としてどのポジションを取りにいくのかという視点がより重要になっています。 戦略としての一貫性を持って取り組むことが、長期的な収益にもつながると考えています。
私たちはリーシング現場の知見をもとに、そうした意思決定を支援していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
湯浅: 設計としては、「どのように使ってほしいか」をどこまで具体的に描けるかが重要です。
単に整えるのではなく、業務のしやすさ、再利用性、価値の持続まで含めて設計することで、長く選ばれる空間になります。
その積み重ねが、結果として収益や資産価値の向上につながると思いますので、ぜひ一緒に最適な形を考えていければと思います。
CBREでは、リーシングと設計を一体化したアプローチにより、収益改善と資産価値向上を実現するセットアップ戦略をご提案しています。物件特性や市場環境に応じた最適な投資判断をご支援いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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塩見 沙織(しおみ さおり)
シービーアールイー株式会社
リーシング
ランドロードレプリゼンテーション
ディレクター
マーケットデータに基づいたリーシング実務を通じ、オーナーの収益向上と資産価値最大化を支援

湯浅 亜希子(ゆあさ あきこ)
シービーアールイー株式会社
リーシング
デザインコレクティブ
ディレクター
クライアントのビジネス理解を通じ、デザイン性と機能性を両立したオフィス空間の実現を支援
