昨今のオフィス移転において、賃料上昇以上に企業を悩ませているのが入居工事を取り巻く環境の急激な変化です。
一般的に「工事費が高くなっている」という認識は広く共有されていますが、実際の現場で起きていることは単純な価格上昇だけではありません。資材調達、人員確保、設計体制など、オフィスづくりを支えるあらゆる要素が変化しており、その結果として入居テナントが負担しなければならないコストや業務範囲が拡大しています。
資材高騰と供給不安が常態化
まず大きな要因として挙げられるのが資材価格の上昇と供給不安です。
現場関係者からは、内装工事で使用する接着剤や壁紙用の糊、床材、シーリング材などについて、価格上昇だけでなく受注停止や供給制限が発生しているとの声が聞かれます。また鉄骨や石膏ボードなど主要建材についても納期が不透明化し、従来であれば当然のように入手できた資材が、必要なタイミングで調達できる保証がありません。
こうした状況を背景に、施工会社は将来的な価格変動リスクを見込んだ上で見積りを提出せざるを得ず、結果として工事費は継続的に上昇しています。現場感覚としては、この5年程度で3割前後の上昇が珍しくない状況となっています。
人手不足が工期長期化を招く
工事費高騰と並んで深刻なのが施工体制のひっ迫です。
現在は施工会社だけでなく、設計会社や専門工事会社においても人員不足が慢性化しています。そのため、かつてであれば半年程度で完結していた入居工事プロジェクトでも、着工に向けた準備期間を含めると1年以上前から動き出さなければ間に合わないケースが珍しくありません。
特に大型案件では、移転計画の初期段階から施工会社の確保が重要なテーマとなっています。場合によっては、オフィスを契約した後も施工順番待ちとなり、希望時期に入居できないケースさえ発生しています。
テナント側へ移る業務負担
さらに注目すべきなのは、工事費そのものよりも、これまでオーナー側やビル指定業者側が担っていた業務がテナント側へ移管され始めていることです。
従来、ビル指定業者によるB工事では、基本設計後の実施設計や積算業務を指定業者側が担っていました。しかし現在は、設計人員の不足を理由に「実施設計までテナント側で実施してほしい」と求められる場面も増えています。また、一昔前であれば無償で提示されていた概算見積についても、「有償でなければ対応できない」「そもそも概算見積を作成する余力がない」といった対応が見られるようになっています。
つまりテナントは、工事費そのものだけでなく、設計費やコンサルティング費用、さらには調整業務に伴う社内負荷まで負担しなければならなくなっているわけです。
求めるオフィスの高度化も一因
もっとも、コスト上昇の要因を供給側だけに求めることもできません。
近年のオフィスは、単なる執務空間ではなく、人材採用や従業員エンゲージメント向上、ブランディングを実現するための経営資産として位置付けられるようになりました。ラウンジ空間やコラボレーションエリア、高度な会議環境など、かつては一部企業だけが採用していた仕様が、現在では事実上の標準となりつつあります。企業自身がより高いスペックを求めるようになった結果、工事内容は複雑化し、工期もコストも増加する傾向にあります。
つまり現在の入居工事費高騰は、資材価格や人件費上昇といった外部要因だけでなく、「オフィスに求める価値そのものの変化」によっても生じている現象なのです。
早期計画が唯一の対策に
こうした環境下では、従来のように物件決定後に設計や工事を検討する進め方は通用しなくなっています。
現在のオフィス移転では、物件選定と同時に設計会社や施工会社との協議を始め、工事リスクやスケジュールを織り込んだ計画を立案することが不可欠です。賃料だけでなく、工事費、設計費、調整コスト、さらには入居までのリードタイムを含めた総合的な視点で移転計画を構築することが、これまで以上に重要になっていると言えるでしょう。
