オフィス市場では空室率の低下と賃料上昇が続き、多くのオフィスビルオーナーや不動産投資家が保有不動産の収益性や契約条件の見直しを検討する局面を迎えています。市場賃料の上昇を背景に、賃料改定、さらには定期借家契約への切り替えを検討するケースも増えています。
一方で、長年入居するテナントとの関係性や、条件見直しに伴う空室リスクを考えると、「市場賃料との乖離は感じているものの、何から着手すべきかわからない」「定期借家契約への切り替えを検討しているが、進め方に不安がある」という声も少なくありません。
そこで今回は、シービーアールイー株式会社 ランドロードレプリゼンテーション部 塩見ディレクターに、オフィス市況の変化を踏まえた賃料改定の考え方、定期借家契約への切り替えのポイント、そして資産価値向上につながる判断軸について伺いました。
塩見 沙織(しおみ さおり)
シービーアールイー株式会社
リーシング
ランドロードレプリゼンテーション
ディレクター
シービーアールイー株式会社 リーシング ランドロードレプリゼンテーション部 ディレクター。長年にわたりオフィスリーシングに携わり、ビルオーナーの賃料戦略や収益改善、資産価値向上を支援。市場データに基づいた賃料改定や契約条件の見直しのコンサルティングを手掛けている。

「満室にする」から「賃料を最適化する」時代へ
― 最近、オーナーからの相談内容に変化はありますか。
確実に変わってきています。これまでは「空室を埋めること」が最大のテーマでした。しかし現在は空室率が低く、満室稼働が当たり前になりつつあります。そうなるとオーナーが次に考えるのは賃料水準の見直しです。市場全体で賃料上昇が続いているため、「現在の賃料が市場と比べて適正なのか」という相談が増えています。
― 賃料改定を検討するきっかけは何でしょうか。
現在のオフィス市場では、新規募集区画の賃料相場が上昇している一方で、長期間入居している既存テナントは過去の賃料水準のまま契約を維持しているケースが少なくありません。結果として、市場賃料との乖離が広がっています。
そうした市場の変化を受け、オーナーの間では、テナントとの関係性にも配慮しながら適切な賃料水準を検討する動きが見られます。
特に複数物件を所有するオーナーやファンド、デベロッパーでは、ポートフォリオ全体の収益改善という観点からも関心が高まっています。
「定期借家契約への切り替え」が注目される理由
― 定期借家契約への切り替えを検討するオーナーも増えているそうですね。
はい。以前から関心はありましたが、現在は市場環境が後押ししています。特に大手デベロッパーが定期借家契約を積極的に採用しており、マーケット全体として受け入れられやすくなっています。
また、市場変化に合わせて契約条件を見直したいオーナーにとって定期借家契約への切り替えは賃料改定の機会を確保する有効な選択肢です。従来の5年契約だけでなく、2〜3年程度の契約期間を設定し、再契約時に改めて市場賃料を反映させることを視野に入れるケースも見られます。
―定期借家契約への切り替えを検討するのは、どのようなケースが多いでしょうか。
将来的な売却を視野に入れているオーナーです。投資家の視点では、市況に見合った賃料が反映されている物件ほど評価されやすく、結果として資産価値向上にもつながります。 また、建替えや用途変更の可能性がある物件でも有効です。将来の運営方針に応じた柔軟な対応を視野に入れる場合、定期借家契約は有効な選択肢となります。

重要なのはテナントとの信頼関係
― このような変化の中、オーナーが最も懸念することは何でしょうか。
最も多いのは、賃料見直しを進める中でテナントとの関係に影響が生じることへの懸念です。オーナーの目的は市場に見合った賃料への見直しであって、テナントとの対立ではありません。
そのため重要なのは、「いくら上げるか」ではなく、双方が納得できる着地点をどう作るかです。ここを間違えると、賃料改定の協議がテナントとの関係悪化につながる可能性があります。
― テナントとの関係維持はどのように考えるべきでしょうか。
テナントとの関係を維持するうえで重要なのは、賃料の見直しがテナントにどのような影響を与えるかを正しく把握することです。一方で、オーナーにとってはテナントとの良好な関係を維持しながら、中長期的な資産価値の向上を図る視点も欠かせません。
そのため弊部では「一方的な条件変更」ではなく、「双方にとって納得感のある解決策を見つける事」を重視しています。具体的には、市況や物件特性、競合物件などを総合的に分析し、テナントとの関係性にも配慮しながら、資産価値の最大化につながる戦略立案や意思決定を支援しています。
判断に重要なポイント
―賃料改定や定期借家契約を検討する際、どのような点を重視すべきでしょうか。
まず重要なのは、その物件を長く保有するのか、それとも将来的に売却や建替えを見据えているのかです。長期保有を前提とするのか、一定期間後の売却を想定するのかで判断は変わります。
長期保有型であれば、テナントに長く入居してもらうことも重要な価値です。その場合、無理に定期借家契約へ切り替える必要はありません。一方で売却や建替えを見据えるなら、定借化のメリットが大きくなります。
もう一つ重要なのが、「市場賃料が上がっているから既存テナントも同じだけ上げられる」とは限らないことです。新規募集賃料と既存契約の改定は別の議論です。だからこそ市場データだけでなく、テナント属性や同エリア内の競合物件、移転コストなども含めて総合的に判断する必要があります。

オーナーの意思決定を支えるランドロードレプリゼンテーションの役割
― CBREのランドロードレプリゼンテーションでは具体的にどのような支援を行うのでしょうか。
CBREでは、オーナーの賃料改定戦略について、策定から実行まで一貫して伴走します。
まず市場分析を行い、現在の賃料水準や競合物件の動向を分析したうえで、市場との乖離を把握し、契約内容やテナントの状況を整理し、見直しの優先順位を明確にします。さらに、目標条件と最低許容条件を設定し、複数のシナリオを比較しながら戦略を立案します。
そのうえで、市場レポートや賃料相場比較資料などをもとに、客観的なデータに基づく検討や方針策定をサポートします。賃料改定においては、金額の妥当性だけでなく、その背景や必要性をテナント企業に理解・納得してもらうことが欠かせません。CBREでは、市場データや比較資料をもとに納得感のある説明材料を整え、円滑な協議と合意形成を後押しします。
こうした取り組みを可能にしているのが、CBREが長年蓄積してきた市場データと分析基盤です。現在の市況だけでなく、過去の市場変動やエリア特性も踏まえながら、競合物件との比較や市場動向の分析を行い、データに裏付けられた意思決定と精度の高い戦略立案を支援しています。
市況上昇局面だからこそ早めの準備を
― 最後に、オーナーへのメッセージをお願いします。 市場動向を踏まえながら、自社にとって最適な選択肢を整理することが重要です。
重要なのは、単に賃料を上げることではありません。賃料改定や定期借家契約への切り替えは、すべて将来の方向性に関わる重要なテーマです。自社の考え方や運営方針に合わせて検討することが大切です。
また、検討開始から合意形成までには時間を要します。検討を始めるのであれば、できるだけ早い段階で市場を把握し、専門家と相談しながら進めることをおすすめします。

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