トレックス・セミコンダクター株式会社|プロジェクトケーススタディ

ケーススタディ
更新日 : 2026年10月22日掲載日 : 2026年10月22日
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電子機器の「心臓」を支える
電源ICの専門集団がABWを導入。
協働の実現に向けた新拠点が誕生。

トレックス・セミコンダクター株式会社 本社オフィス

トレックス・セミコンダクター株式会社
本社オフィス

電源IC※1を中心とするアナログ半導体の設計・開発・販売を手掛けるトレックス・セミコンダクター株式会社が、2025年11月に東京都中央区新川から、江東区の「メブクス豊洲」へ本社を移転した。新オフィスには約150名がワンフロアに集結。部門間の壁を取り払い連携をさらに深めるため、ABW※2を導入。自社の特徴である実験室を執務室と同じフロアに集約し、ガラス張りにすることでエンジニアと他部門が気軽に意見を交わせる環境を整え、部門を超えた協働から新たな価値を創出するオフィスを実現した。設立30周年の節目に実施された本社移転を通じ、持続的な成長と新しい働き方の定着に挑む、同社のプロジェクトを取材した。

トレックス・セミコンダクター株式会社 本社オフィス開放的な執務エリアにソロワーク席とコラボ席を配置

移転プロジェクトが発足、ワンフロア化が必須条件

同社は小型で低消費電流を強みとする、電源ICを設計・開発・販売する半導体メーカーだ。ターゲットは多様な民生機器をはじめ、車載、IoT※3、産業機器、医療機器まで幅広い。総務部の前田和宏氏は、近年の業績推移について「半導体需給が逼迫していた時期には、当社の売上も高い水準で推移しました」と話す。その後、市場全体の在庫過多による反動で業績が落ち込む時期もあったが、回復基調を維持している。続いて、「半導体業界が成長する中で、当社にも大いなる好機が広がっていくと捉えています」とも述べる。

このような事業環境の中で課題となっていたのが、本社のオフィスだ。築約40年が経過しており、執務スペースや実験室が3階、6階、7階の3つのフロアに分断されていた。従業員約150名のうち約4割をエンジニアが占める同社にとって、この物理的な分断は部門間の連携を妨げる深刻な問題だった。総務部の押田俊一氏は振り返る。「旧オフィスはフロアの分断に起因して、部門間の連携に物理的な壁が存在していました。他部署の従業員と長期間顔を合わせない事態も発生していたため、全従業員が同じ空間で働ける環境が不可欠だと考えていました」。出社と在宅のハイブリッドワークが定着する中、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できる体制の整備が急務となっていたのである。

移転に向けた物件探しは2018年から始まり、2度の見送りを経て、2024年1月頃に3度目の検討を開始。2024年8月に各部門から選出された、16名のメンバーによる移転プロジェクトが始動した。プロジェクトリーダーであるプロセス製品技術部(当時)の村瀬恵氏は、立ち上げの背景に込められた理念をこう語る。「本プロジェクトは『従業員自らの手で、理想のオフィス環境を構築してほしい』という経営トップの強い意向から始動しました。過去の慣習にとらわれない、新たな価値を生み出す拠点を創出することが最大の目的でした」。

他社への視察などのリサーチを経て、ワンフロア化を必須条件として、広大なフロアプレートを持つ「メブクス豊洲」を最終的な候補とした。難関だったのが、開発部門に不可欠な実験室の設置条件だ。特殊な空調設備や電源容量などの要件を満たす必要があり、都心部のオフィスビルでこれらの条件を満たす物件は希少だ。押田氏はこの難題解決に際し、 CBREの支援を強調する。「実験室の設置にあたっては、電源容量や空調設備など専門的な調整が不可欠でした。多数のプロジェクト実績を有するCBREの支援があったからこそ、複雑な要件を満たす移転先を無事に確保できたと考えています」。排熱のため、実験室の窓を撤去して大型ダクトを外壁に通し外気を導入するなどの特殊工事についても、入念な交渉により、実現に向けて調整を重ねた。

隣接する実験室と空間を分けつつも窓越しに視線が抜ける「Mars(火星)」エリアは、グループでの議論や顧客への提案の場となる、熱気にあふれた空間隣接する実験室と空間を分けつつも窓越しに視線が抜ける「Mars(火星)」エリアは、グループでの議論や顧客への提案の場となる、熱気にあふれた空間

従業員主導のプロジェクト体制、膨大な紙資料をペーパーレス化

プロジェクトは全体会議に加え、IT、執務室、実験室の3つの分科会を組成。移転および移転後のフォローアップを含む約1年半にわたり、隔週でミーティングを重ね、新オフィスの詳細を議論した。注力したのがペーパーレス化の推進だ。全社で「紙の90%削減」という目標を掲げ、 PDF化を進めた。製品開発2部の金林聡子氏は当時の奮闘をこう話す。「開発部門には、長年にわたり蓄積された膨大な紙資料が存在しており、その処理が大きな壁となりました。全社的な目標達成に向けて段階的に廃棄日を設定し、経営陣の協力も仰ぎながらペーパーレス化を進めました」。この徹底した取り組みにより、旧オフィスに210本あったキャビネットは40本にまで削減され、新オフィスにゆとりのある空間を確保した。

移転における最大の変革は、全役職員を対象としたABWの導入である。業務に合わせて働く場所を自由に選べるようにしたことで、従業員の創造性を引き出し、自発的なコラボレーションが生まれる働き方への転換を図った。長年、固定席で業務を行ってきた役職員からは不安の声も上がったが、プロジェクトメンバーは導入の意志を貫いた。

村瀬氏は当時の対応について「固定席を廃止する方針に対して、開発部門を中心に不安の声が寄せられたのも事実ですが、時間をかけて、場所を選ばない働き方が可能であることへの理解を得ていきました」と振り返る。

情報システム部の小林忠弘氏は、この変革に対して「従来のような固定的な執務環境には課題を感じていました。自律的に働く場所を選択できるABWの導入は、従業員のパフォーマンス向上に直結する、有意義な施策だと思います」と語る。プロジェクトメンバーは経営陣に対して働きかけを行い、フリーアドレス化の意義を浸透させることで、組織全体の意識改革を進めていった。

「木漏れ日」をイメージした眺望のよいEarth(地球)エリア「木漏れ日」をイメージした眺望のよいEarth(地球)エリア

「3C」を重点的に体現する、空間デザインとテーマ

ABWの導入により、従業員は自身の業務内容に合わせて、最適な空間を選択できるようになった。移転後、「Earth(地球)」エリアは予想に反して静寂が保たれた空間として、支持を集めている。村瀬氏はこのエリアの利用状況を「早朝に出社し、集中して業務に取り組む社員の姿も多く見られ、それぞれの業務に応じた場所の選択が定着しつつあると感じています」と分析する。

各部署の本を集めた図書コーナーや大きなテーブルが設けられたカフェスペースについて、金林氏はその使われ方を「休憩時間には多くの従業員が図書スペースに集い、食事や歓談を楽しむ姿が見受けられます。多様な人材が自然と交流できる場が誕生したことは、大変嬉しく感じています」と笑顔を見せる。

新オフィスの設計にあたって掲げたのが、コラボレーション(Collaboration)、クリエイティビティ(Creativity)、コントリビューション(Contribution)を表す「3C」というコンセプト。土星のリングを想起させる同社のロゴからヒントを得たCBREが、宇宙散歩をデザインコンセプトとして提案。将来、宇宙船に同社製半導体が搭載されることへの期待を込め、エンジニアの発想力を刺激する空間を描いた。オフィスを回遊するレイアウトを採用し、各エリアには月や惑星の名前を冠している。村瀬氏はデザインの連動について「弊社のロゴマークから、CBREが宇宙散歩というコンセプトに落とし込んでくださったのを見て感激しました」と語る。

「3C」の要素である創造性について、金林氏は「創造性について議論した際、『オフィス内を歩きながら、ふと良いアイデアが思い浮かぶような環境が理想』とお伝えしました。その後ご提示いただいたデザインの一端に『木漏れ日』というキーワードが記されており、私たちの想いが反映されていると実感しました」と振り返る。

会議室の名称にも、同社ならではの専門性が反映されている。電源ICの開発に縁が深いトランジスタの4つの端子の頭文字であるS、D、G、Bを採用。役員用は基板の裏側から制御する役割を持つバックゲートのBとし、経営陣が会社や社員を陰から支える意義を込めた。ちなみに来客用の会議室は、入口を意味するゲート(Gate)のGとなっている。

大テーブルと図書コーナーがあるカフェスペース「Jupiter(木星)」は社員の交流の場大テーブルと図書コーナーがあるカフェスペース「Jupiter(木星)」は社員の交流の場

「3C」の完成と、協働が生み出す次なる飛躍

都心のオフィスビル内に本格的な実験室を備えている環境は珍しく、学生の関心を惹きつけている。総務部の鈴木博通氏は「新オフィスは採用活動において、強力な訴求力を持っています。学生やインターンシップ参加者に働く環境を見学いただくことで、当社の魅力をより深く理解していただく契機になると確信しています」と手応えを語る。

移転を通じて、部門間の壁を取り払い、新たな価値を生み出す環境が整った。今後はさらに社内外とのコラボレーションを推進していく構えだ。金林氏は今後の展望に力を込める。「従業員同士が密接に協働して、製品を生み出す過程を可視化できたことは、大きな成果です。今後は組織全体のさらなる結束を図り、創造的な開発体制を広く発信していきたいです」。

この新しい環境がもたらす目標について、村瀬氏は「3C」の理念と結びつけてこう述べる。「充実した環境を基盤に創造性を発揮し、優れた製品を世の中に送り出すことができれば、3つ目のCであるコントリビューション(貢献)が実現し、『3C』が完成すると考えています」。

数々の困難を乗り越え、従業員が主体となって完成させた新オフィス。村瀬氏をはじめとしたプロジェクトメンバーは、プロジェクト推進の過程をこう総括する。「変革の過程では様々な意見や懸念の声も寄せられましたが、プロジェクトメンバー全員が新しいオフィスの理念を信じ、一丸となって牽引し続けたことが、成功の要因であったと分析しています」。電子機器の「心臓」を支える専門集団は、新たな拠点を成長の原動力として、部門を超えた協働から新たな価値を生み出し、さらなる飛躍を目指す。

トレックス・セミコンダクター株式会社 本社オフィス 外出前後の短時間を活かせるテーブル兼作業台

プロジェクト概要

企業名

トレックス・セミコンダクター株式会社

施設

本社オフィス

所在地

東京都江東区豊洲6-4-34

延床面積

約530坪

人員

約150人

開設時期

2025年11月

CBRE業務

オフィス仲介、オフィス設計、工事請負、T&Tによるプロジェクトマネジメント

※1:電子機器の各パーツに最適な電圧へ変換し、電力を供給する半導体
※2(Activity Based Working):仕事の内容・状況に応じて「最もパフォーマンスが発揮できる場所」を社員自ら選択して働くことができる環境
※3(Internet of Things):家電など様々なモノをインターネットに接続し、データ通信や遠隔操作を行う仕組み

上記内容は 「BZ空間」2026秋号 掲載記事
です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。