共創を体現する空間づくりで、多様性に富んだ新たな価値創造へ。
社員の創造性を高め、持続的成長を目指す。
株式会社丸井グループ
本社改修
「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」ことをミッションに掲げる株式会社丸井グループが、今年、東京・中野の本社ビルに「共創HALL」(3階)と「共創LOUNGE」(9階)を開設した。1994年の竣工から30年が経過した本社ビルの改修は単なる老朽化対応だけではなく、「共創」を体現する空間づくりとして位置づけられている。「好き」を応援するビジネスを展開する同社が「手挙げの文化」を加速させ、社員の創造性と対話力を高める取り組みを取材した。
経営の根幹に「共創」を。丸井が見据える成長戦略
丸井グループは、小売事業(「マルイ」「モディ」などの商業施設運営)、フィンテック事業(「エポスカード」などのクレジットカード事業、家賃保証、少額保険など)、未来投資(スタートアップへの投資や新規事業創出)の三位一体のビジネスモデルを軸に、社会課題の解決と企業価値の向上を両立する「共創経営」を推進している。「共創」というキーワードが同社の中心となったのは2015~16年頃。博多マルイのオープンを機に、縁もゆかりもない土地で、地域の人々と一緒に店づくりをする取り組みから本格化した。不動産・建築部企画・開発課長の小野裕也氏は「開店の数年前から地域の皆様にご協力いただき、店舗づくりに関するご意見をうかがう取り組みを実施していました」と当時を振り返る。
もともと「共創」の考え方は同社のDNAに根付いていた。若者が商品を購入する際、月賦という形で分割し、信用が高まるとより高いものを買えるようになる。「信用を共に創る」という考え方が、同社の商売の根幹にあったのだ。近年は脱デフレの兆しが見え始め、消費者の価値観が「コスパ」から「好き・共感」へとシフト。デジタル化とキャッシュレス化の加速、サステナビリティ・人的資本経営の重視など、企業を取り巻く環境は変化している。こうした中で企画・開発課の杉村真紬子氏は「『共創』をキーワードに、社内外の多様なステークホルダーと協働することで、新たな価値創造や事業領域拡大を目指しています」と話す。
不動産・建築部企画・開発課長 小野裕也氏
企画・開発課 杉村真紬子氏2度の赤字を乗り越え、V字回復。企業文化の変革と本社再構築とは
丸井グループが現在の柔軟な企業文化を築くまでには、長い変革の歴史がある。最初から変化に対応できていたわけではなく、その原動力となったのは2度の赤字転落だ。
2000年代初頭、業績至上主義がまん延し、社員間の信頼関係は希薄化していた。そんな中、2005年に社長に就任した青井浩氏は抜本的な企業文化の改革に着手。「私たちはなぜ働くのか」という問いを全社員に投げかけ、価値観と風土の再構築を進めた。企業理念を策定し、社員との対話を重ねることで「対話の文化」を醸成し始めたのである。
しかし改革の途上、貸金業法改正や2008年のリーマンショックが直撃し、丸井グループは2度の赤字決算を余儀なくされた。それでも青井氏は改革を止めず、過去の成功体験に依存しない新たなビジネスモデルと企業文化の構築に挑戦。「結果として『働き方改革』『多様性の推進』『手挙げの文化』『グループ間職種変更異動』など、独自の8つの取り組みが進められました」と小野氏は語る。
「2017年頃からは社員参加型で『働く場のあり方』を検討が始まり、2018年には多様な働き方に対応するワークスペース『tamaru』が誕生しました」。杉村氏は続ける。これは社員の成長とイノベーション創出を促すために導入された「グループ間職種変更異動」により浸透した組織の壁を越えた取り組みを支えるために不可欠なフロアであり、その経験は今回の改修計画の基盤となった。さらに2020年のコロナ禍でリモートワークが急速に普及すると、オフィスの役割を再定義する議論は加速。小野氏によると「リモートワークが広がり、改修計画は一時足踏みしたものの、状況が落ち着いた後、本格的に推進されることになりました」という。
同社の特徴的な制度として、本所属とは別に「共創チーム」と呼ばれる兼任組織が約20存在する。フィンテック、小売、物流など多様な部門のメンバーが集まり、異なる視点を持ち寄って活動することで、イノベーションを生み出す仕組みだ。今回の改修にはこのようなビジネスを活性化するため、より柔軟な働き方を可能にする狙いもある。そこで、こうした横断的な働き方に慣れたメンバーが率先して意見を出し、社内アンケートやインタビューを通じて多様な声をプランに反映。社員の思いを結集したプロジェクトとなった。
改修は2023年末から本格的に始動し、2025年の株主総会までの竣工を目標に段階的に進行。3階は2024年9月着工・2025年4月竣工、9階は2024年10月着工・2025年7月に竣工した。本社には協力会社を含め約1,000人以上が在籍し、執務スペースは役員フロアを除く17フロアに分散。「共創HALL」や「共創LOUNGE」「tamaru」の共用フロアを除くと、実質14フロアに分かれている。
「手挙げの文化」を加速させる、「共創HALL」と「共創LOUNGE」の改修
丸井グループには「手挙げの文化」が根付いている。社員が自ら事業を企画し提案する仕組みで、その議論の場はかつて「旧ホール」だった。小野氏は「旧ホールは株主総会や責任者会議などフォーマルな場として使われており、自由な議論の場としては少し堅い雰囲気がありました」と振り返る。こうした課題を解消し、より活発な意見交換を促すために誕生したのが「共創HALL」である。
従来のホールは長方形の短辺側にモニターを配置し、席が縦に並ぶ昔ながらのレイアウトで、責任者会議や経営計画報告に利用されていた。新しい「共創HALL」は、社員、パートナー、株主など多様な人々が集い、物理的・心理的な隔たりをなくしたコミュニケーション空間を体現。デザインは佐藤オオキ氏率いるnendoが担当。杉村氏によると「レイアウトを縦方向から横方向へ転換したことで、登壇者と参加者の距離が近くなり、臨場感が高まりました。さらに、向き合い方を『正対』ではなく『求心』にすることで一体感を演出しています」。
設備面では、タブレットで操作できる3面の大型スクリーンを導入し、高い視認性と照明演出で快適な空間を実現。自動追尾カメラにより、ピッチイベントのようなプレゼンも可能だ。加えて、この規模では世界初となる「ボイスリフト」を採用。シーリングマイクで話者の声を拾い、複数スピーカーから出力することで、ハンドマイクなしでも部屋のどこにいてもクリアな音声が届く。小野氏は「フロアの反対側でもマイクで話しているように聞こえ、オンライン参加者にも臨場感を伝えることができます」と語る。
9階の「共創LOUNGE」は、固定席の執務空間だったところを、誰でも使えるラウンジに改修。最大180人が執務できるスペースに、4つの会議室とカフェ、展示コーナーを併設し、20~40人規模のイベントが行えるエリアを3カ所設けるなど、多様な使い方が可能だ。こだわりのひとつが選書。ブックディレクターの幅允孝氏が代表を務める、選書集団BACHに依頼し、1,600冊を配置。杉村氏は「役員を始め、新規事業のプロジェクトチームなどに参加する社員のうち、手を挙げた30名ほどに、100冊から好きな本を選んでもらい、インタビューした上で選書しました」と明かす。また、丸井グループでは、日頃から読書が推奨されており、選書された書籍も社員の学びやコミュニケーションを促進するツールとして活用されている。
社員参画型のプロジェクト推進。完成後も続ける、改善活動
無事に完成した「共創HALL」と「共創LOUNGE」だが、ここからがスタートだ。小野氏は「音響機器など複数の最新設備を導入しましたが、それらの設備を各会議体で十分に活用しきれていないという課題があります」と打ち明ける。社員への浸透もこれからで、小野氏によれば「『共創HALL』は開放しており、自由に使用できることの周知を進めているところ」だという。「共創LOUNGE」の内覧会には、社員約150人が参加。カフェなどの施設の使い方を説明し、コーヒーを飲んでもらうなど、伝えていく努力を続けている。小野氏は新施設への期待を込めてこう述べる。「当社はイベントを好む社風で、社内コンクールなどが非常に多いです。『手挙げの文化』を掲げていますので、そうした場として活用されることを期待しています」。
杉村氏も熱を込める。「多様なコミュニティやパートナーとの交流を通じて熱量の高い議論が生まれ、共創の取り組みが加速することを期待しています。この空間によって会社が好きになるような、社員のモチベーション向上につながることを、一社員として嬉しく思います」。加えて、採用活動への活用も期待されている。「当社が目指す姿と、社員が実際に働く場がしっかりと結びついていることを、ここに訪れる学生や社外パートナーにも感じていただけることが重要だと考えています」(杉村氏)。小野氏は本社に対する、投資判断の背景を明かす。「当社はこれまで店舗への投資に注力してきましたが、フィンテック事業の利益が拡大し、小売事業と逆転する中で、本社スタッフの貢献も大きいため、本社へも投資を行うこととなりました」。
丸井グループの本社改修はオフィスリニューアルの枠を超え、人的資本経営の実践の場としても位置づけられている。社員を「価値創造の源泉」と捉え、エンゲージメント・能力開発・多様性・健康・働きやすさを重視する経営を標榜。「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」というミッションのもと、社員の創造性と多様性を尊重し、共創を通じて価値を生む企業として、新オフィスは理念の醸成に重要な役割を果たすに違いない。
| 企業名 | 株式会社丸井グループ |
|---|---|
| 施設 | 本社 共創HALL、共創LOUNGE |
| 所在地 | 東京都中野区中野4-3-2 |
| 規模 | 〔共創HALL〕最大280人収容 〔共創LOUNGE〕最大約180人収容 |
| 供用開始 | 〔共創HALL〕2025年6月 〔共創LOUNGE〕2025年8月 |









