急成長の再生医療ベンチャーがコロナ禍に決行した本社移転プロジェクト。床面積を2倍に増床して「リアルで集まりたくなるオフィス」を構築。
セルソース株式会社
本社オフィス ZERO BASE
再生医療事業で急成長するベンチャー企業「セルソース」は、2023年7月、本社を渋谷キャストに移転した。これにより、床面積は従来の200坪から400坪へと倍増。コロナ禍で出社する社員が減り、オフィス移転や増床を見送る企業が多い中、あえて大幅増床移転に踏み切ったのはなぜなのか。そこには、急成長を遂げるベンチャー企業ならではの理由と、未来創造を担っていくという力強い意志があった。新オフィス構築の狙いと、ベンチャーらしいスピード感で半年強で遂行された移転プロジェクトの全貌を取材した。
唯一無二のビジネスモデルで急成長の再生医療ベンチャー
渋谷の人気スポット、宮下公園を見下ろす形でそびえ立つ複合商業施設「渋谷キャスト」の11階に、そのオフィスはある。足を踏み入れると、やわらかな光の白を基調に、鮮やかなグリーンのアクセントカラーが目を引く。空間は全体を通して円形や曲線のモチーフでデザインされており、シンプルかつ近未来的な雰囲気が漂う。
この会社は、再生医療のリーディングカンパニー・セルソース。2015年の創業以来、急成長を遂げているベンチャー企業だ。今年7月、渋谷の別のオフィスビルから渋谷キャストに本社を移転したばかり。従来の200坪から400坪へと大幅に増床した。ここには社員140人のうち、製造ラボ(再生医療センター)勤務を除く約90人が働く。
セルソースが主に手がけるのは、患者の脂肪組織や血液から幹細胞や成長因子を抽出し、培養・凍結や凍結乾燥する加工受託サービスである。例えば、医療機関から患者の細胞を預かり、そこから抽出した一つの幹細胞を数千万個~数億個にまで培養する。それが再び医療機関に戻され、患者の治療に使われている。「再生医療と聞いて一般的にイメージされるiPS細胞やES細胞は、まだ社会実装されてはいません。患者さん本人の細胞や血液を使った再生医療が、新たな治療法の選択肢として注目されています」と同社執行役員経営企画本部長の細田薫氏は話す。
再生医療に期待のかかる疾患の一つが、変形性関節症である。関節の軟骨がすり減って炎症を起こす変形性関節症は、国内で4000万人強※ の患者がいるとされる。「今は膝への治療がメインですが、ひじ、腰、アキレス腱などにも使えるので、使用用途は増えていくと予想しています」と細田氏は話す。
そして、加工受託サービスというビジネスモデルにこそ、同社の急成長の秘密があるという。「多くの競合他社は、再生医療に対応する医療機器・設備を医療機関に販売するスタイルですが、この場合医療機関側に大きな負荷がかかるので、導入可能な医療機関は限られます。一方、我々のサービスは非常に負荷が小さいので、全国のクリニックを対象にできます」(細田氏)。現在は約1,600の医療機関と提携し、累計で6万8000件の加工受託実績がある。国内には1万2000の整形外科があるということなので、伸びしろはまだまだありそうだ。
※出典:Yoshimura N, et al., J Bone Miner Metab 27: 620-628. 2009
渋谷生まれ、渋谷育ち 旧オフィスは深刻なスペース不足
渋谷キャストの新オフィスは、創業から数えて3ヶ所目のオフィスとなる。人員増加に伴い身の丈に合ったオフィスに衣替えするのは、ベンチャー企業の“あるある”である。同社のオフィス移転の軌跡を振り返ってみよう。
そもそも、なぜ渋谷なのか。「渋谷はセルソースの“創業の地”とも言える場所です」と話すのは、同社コーポレート本部管理部長の清森雄一氏だ。創業時、最初に事務所を構えたのは、取引先のクリニックに近い六本木だったが、製造ラボが渋谷にあったという。渋谷にラボを置いた経緯について清森氏は、「製造ラボの立ち上げにはクリーンルームなどの設備が必要で、大きな初期投資がかかりますが、ご縁があって初期投資を抑えて入手できた場所が渋谷だったのです。当時は社員数が少なかったこともあり、六本木の事務所よりも渋谷のラボによく集まっていたので、渋谷=創業の地の感覚です」と話す。
その後、社員が30~40人に増え、渋谷のワンフロア約120坪のオフィスビルに事務所を移転した。コロナ前のことである。さらに社員が倍増し、同じビル内で別のフロア(約80坪)を借り増したものの、スペース不足は深刻な状態だったという。当時の状況について清森氏は、「座席も会議室も圧倒的に足りませんでした。ウェブミーティングに比較的快適な場所として、共用部に置いてあった冷蔵庫の上のスペースが争奪されていたほどです」と振り返る。
また、フロアが分かれていることによる社内コミュニケーションの問題もあった。「例えばトラブルが発生した時、対面で話せば大事に至らないのに、スラックなどのデジタルツールに安易に頼ることでコミュニケーションの質が落ち、意思疎通がうまく取れていないことがよく起きていました。フロアが違うと顔を合わせる機会がなく、まるで別会社のように感じる時もありました」(細田氏)。そのような中、生産効率のよいオフィスを求めて移転話が浮上したのである。
移転まで半年余りの超短スケジュール、社内デザイナーがディレクション担当
折しもコロナ禍の真っ只中である。社会全体が一斉にテレワークに舵を切る中、オフィス縮小や解約に動く企業、あるいは移転を見合わせる企業が大半だった。セルソースも、コロナ禍が始まった2020年には、2フロアのうち1フロアの解約を検討した時期もある。しかし、2021年に入り人が会社に戻り始めると、座席不足の問題が再燃。いち早く移転に向けて動き始めたのである。「当時はシェアオフィスやサテライトオフィスを活用するのが主流で、新しいオフィスに移転しようというベンチャー企業は稀だったと思います。それでもやはり、我々は対面によって生み出されるものに価値を認めているので、人が集まり人生が豊かになるオフィスをつくりたいと考えました」(細田氏)。
移転先を探し始めると、「前の入居企業のデスクをそのまま使えて、初期投資も抑えられるという、成長過程のベンチャー企業には魅力的な居抜き物件」(清森氏)に出合った。契約寸前まで話が進んだものの、「2フロアに分かれていること等がネック」となって見送ることに。2022年8月、改めて「渋谷・ワンフロア・400坪」を条件に探したところ、唯一条件を満たしたのが渋谷キャストだった。翌日には裙本理人社長も同行して内見し、その日のうちに決定した。
11月には、渋谷キャストへの移転が社内に通達された。「具体的なプランや移転日も決まっていない状態でしたが、移転を公にしたことで、社内でくすぶる座席不足への不満に対して一定の回答を示すことができたと思っています」と細田氏。同じ頃、清森氏ら管理部を中心とするメンバー6人から成る移転プロジェクトチームが発足し、PMにCBREを迎えて移転プランを議論し始めた。すでに決まっていた旧オフィスからの退出スケジュールに合わせて、引っ越しを翌年6月と決定。移転まで半年余りという超過密スケジュールを条件に、対応可能なデザイン会社・設計会社・施工会社をコンペで選定した。
特徴的なのは、セルソースはこの規模の事業会社には珍しく社内にクリエイティブチーム(デザイン戦略部)を持っており、社内デザイナーが新オフィスの内装やサイン制作などデザイン部分をディレクションしたことだ。「デザイン思考は裙本社長の経営哲学であり、お客様の手に届く販促物はすべて内製すべきという考え方です。会社のブランドを体現するオフィスも同様で、デザインにはかなりこだわってつくりました」と清森氏は話す。
新オフィスのコンセプトは、「リアルで集まりたくなる場所」
では、セルソースの新オフィスの概要を見てみよう。新オフィスは、同社の価値観の一つである「ゼロベースで考える」を基に、「ZERO BASE」と名づけられた。「リアルで集まりたくなる場所」をコンセプトに、より活発なコミュニケーションから新しい価値が生まれる場としてデザインされた。
執務エリアは、基本的にフリーアドレス制にした。執務エリアと飲食や休憩ができるリフレッシュエリアを明確に分けることで、「エリア間を移動する途中で偶然の出会いが生まれ、コミュニケーションが発生するような環境を意識しました」と清森氏。旧オフィスで大幅に不足していた会議室は、8室と多めに設置。オフィスでの生産性が上がるよう、ITインフラの整備にも投資した。
BCPの観点では、渋谷キャストに入居したことで安全性が向上した。非常用電源があるため、災害による停電時にも事業継続や安全性の確保が可能になる。また、非常用の備蓄用装具が専有部以外に備え付けられており、「自社の専有部を圧迫せずに防災備蓄ができるのはありがたい」と清森氏は話す。
プロジェクト遂行にあたり苦労したのは、スケジュールとコストの管理だという。「社内デザイナーの要望を色々と汲み取って図面に反映していただいた一方で、当初計画のスケジュールやコストに大きな影響が出ました。ただ、予算オーバーは絶対にあり得ないので、プロジェクトを統括する立場として、予算とスケジュールの管理は徹底して行いました」と清森氏。とはいえ、スケジュールは計画より2ヶ月ほどずれ込むことに。そこで、上層階に住居が入る渋谷キャストでは通常のオフィスでは行える平日夜間の音出し工事は難しかったが、「ビルオーナーの了解を得て、平日夜間にも音出し工事を許可してもらうことで、2ヶ月の遅れを1ヶ月に短縮することができました」と清森氏は話す。
渋谷キャストを基幹拠点にして、新たな価値を生み出していく
セルソースでは、出社でもリモートでも働き方は個人の自由だ。そのうえで「社員の力を最大限に引き出す、出社したくなるオフィス」をめざして構築したのが、今回の新オフィスである。出社率は7割に上るという。本社勤務の90人に対して、「200人までは収容できる」(細田氏)くらいの余裕を持たせており、現時点では広すぎるくらいだ。とはいえ、「我々の売上は年率30~40%で増えていて、社員数もコロナ禍にもかかわらず毎年30人弱のペースで増えています。今後もこのペースもしくはそれ以上の速度で成長していくつもりなので、来年や再来年には埋まっているかもしれません。むしろ、埋まっていてほしいですね」と細田氏は期待を込める。
次にスペースが埋まり、渋谷キャスト内に別フロアを借り増すことになったら、社員や関係者のみならず、地域住民も集えるような「セルソースパーク」をつくりたい⸺。清森氏によると、そんな夢のある構想を裙本社長は描いているという。渋谷キャストに新たな基幹拠点、ZERO BASEを得たセルソースは、これからどんな新たな価値を生み出していくのだろうか。その挑戦と飛躍に今後も注目したい。
| 企業名 | セルソース株式会社 |
|---|---|
| 施設 | 本社オフィス「ZERO BASE」 |
| 稼働開始日 | 2023年7月 |
| 所在地 | 東京都渋谷区渋谷1-23-21 渋谷キャスト11階 |
| 規模 | 約400坪 |
| 人員 | 約90人 |
| CBRE業務 | 本社構築に向けた物件紹介・仲介、プロジェクトマネジメント |





