グローバル競争を勝ち抜くオフィス移転。創業の精神を具現化する空間がイノベーションを加速させる。

食事、リフレッシュ、コラボレーション、個人作業、イベントなど多目的に利用可能なカジュアルでオープンなワーキングカフェ
アシックスは、創業75周年および合併50周年※1の節目を機に、イノベーション創出のため、新たなオフィス戦略のもと、国内主要拠点(神戸のアシックス本社、東京のアシックスジャパン本社、アシックス東京オフィス、兵庫県尼崎市のアシックスジャパン関西オフィス)の移転を決定した。本稿では、東京・江東区の自社ビルから東京・丸の内のJPタワー24階へのアシックス東京オフィス/アシックスジャパン本社移転プロジェクトを取材。新オフィスは面積を約60%削減してワンフロアに集約し、ABW(Activity Based Working)※2の導入により、部門横断的なコラボレーションを促進。オフィス中央のワーキングカフェでのコミュニケーション活性化や、シューズ廃材を原料に用いたサステナブルな空間設計など、次世代のワークプレイス変革の軌跡を追った。
常務執行役員CAO 堀込 岳史氏

グローバル化を見据えた経営課題、オフィスの価値を再定義
スポーツブランドとして、世界中の人々の心身の健康への貢献を最優先課題とするアシックスは、従来の商品開発や生産にとどまらず、近年はデジタルを通じたランニングサービスなどにも事業を拡大している。現在、売上の80%以上は海外市場が占めており、海外の企業やマーケット、そして多様な人財と渡り合えるグローバル人財の獲得と定着が急務となっていた。
こうした環境下において、オフィス環境の価値が見直されることとなった。常務執行役員CAOの堀込岳史氏は、かつての労働環境からの脱却の必要性をこう語る。「従業員が働きがいを感じ、モチベーションやエンゲージメントを高く維持できるオフィス環境の構築は、今後の経営において極めて重要な課題だと認識しています」。
グローバル人財の獲得競争が激化する中、優秀な人財を惹きつけ、定着させるための魅力的な基盤づくりは不可欠だ。近年は中途採用の候補者もオフィス環境を重視する傾向が強まっており、働く人々のマインドの変化に対応する職場環境の構築が求められていたのである。
移転への機運が高まった背景には、創業から75周年、合併から50周年という大きな節目を迎えること、そして会社の業績が好調に推移し、次なる成長を見据えたオフィスづくりへの意欲が高まったことが挙げられる。移転前の約10年間は、江東区の自社ビルに本社機能を構えていた。同ビルでの業務開始当時は都心からの距離もさほど問題視されていなかったが、事業のグローバル化が進むにつれ、通勤アクセスが東西線一本に限られるという立地上の課題が顕在化していった。実際、江東区の自社ビルに対する従業員満足度は46%にとどまっていた。
加えて、コロナ禍を経て出社率は低下。自社ビルの稼働率も下がり、有事の際のBCPの観点からもオフィス環境を見直す機運が高まった。こうした労働環境の課題と、グローバル人財獲得の必要性が合わさり、自社ビルの売却と賃貸ビルへの移転という大きな変革へ踏み出すことになったのである。

交流を促すワーキングカフェは、情報共有や懇親の場を創出。柔軟な働き方と快適な環境を支える設備も充実
利便性と外部ネットワークを重視した物件選定
具体的な検討は2023年の夏頃から開始され、2024年3月に社内外へ移転計画を発表。2025年5月に新オフィスが開設された。物件探しにおいてはCBREがサポート。堀込氏は「複数の候補を出していただいた中で、JPタワーが出てきたのは幸運でした」と振り返る。
アシックス東京オフィス/アシックスジャパン本社が移転先を探すにあたり、優先したのがアシックスが本社を置く神戸とのアクセスだ。堀込氏は「私を含む経営幹部や社員が頻繁に神戸と東京を往復するため、新幹線の利用に便利な東京駅周辺が有力候補でした」と話す。加えて、IRやメディア戦略を重視する同社にとって、金融機関などが集まる丸の内エリアは外部とのネットワーク構築に非常に有利だった。
それらを踏まえて「週3日以上の出社、リモートワークも可能」とする柔軟な働き方を前提に、使用面積を移転前の60%程度に削減する計画を立てた。その結果、様々な提案の中から、アクセスや採用力の向上、BCP対応など多くの要件を満たす、丸の内のJPタワー24階、約1,000坪の空間への入居が決定した。

創業哲学が息づく受付。五大陸の名を持つ来客会議室が並ぶ
組織横断のタスクフォースと歴史を体現するオフィスづくり
本プロジェクトは、単なるオフィス移転にとどまらず、従業員の働き方や意識を変え、組織を進化させるための変革の起点として始動した。移転が決定した直後から、総務部10人前後の事務局を中心に、全社から様々な部署のマネジャークラスを集めた、約30名の組織横断的なタスクフォースが結成された。堀込氏は「各部門のマネジャーに参画してもらい、現場の意見を丁寧に集約しながら推進した」と語る。
アンケートを通じて、社員がどのようにオフィスを使っているのか、何が不満で何を望んでいるのかを詳細に調査し、ワークプレイス方針の策定に役立てた。通勤環境の変化や実務的な心配事に対しても、タスクフォースが窓口となって丁寧に対応し、総じて移転を歓迎する空気が社内に醸成された。
新オフィスのデザインコンセプトは「Creative Node/Link」、つまり過去・現在・未来をつなぎアイデアを生み出す場とされ、「コラボレーション」「イノベーション」「ブランド価値創出」という3つの柱が掲げられた。部門間の垣根を越えた交流を促すため、ABWを導入。オフィスの中央には多目的なワーキングカフェが配置され、集中作業や個人作業のエリアと組み合わせて、多様なコラボレーションの場が用意された。このワーキングカフェは、創業者である鬼塚喜八郎氏が愛した花にちなんで「ひまわり」と名付けられ、常に高い目標に向かって成長していくという願いが込められている。来客用会議室の名称には、社内公募で選ばれた「大陸」の名を採用。ネーミングのプロセスにおいても、従業員参加型のオフィスづくりを実践している。さらに全23室の社内会議室には、鬼塚株式会社設立の「1949」や、アシックスストライプ発表の「1966」など、同社の歴史を彩る年号が冠され、社員のエンゲージメント向上に寄与している。

社内公募で命名されたワーキングカフェ「ひまわり」

20を越える社内会議室は、同社の歴史を彩るエポックメイキングな年号が冠されている
ブランドの精神性を現し、廃材を利用したオフィス環境
サステナビリティへの配慮も新オフィスの大きな特徴だ。廃棄予定となったシューズを粉砕した材料を用い、カリモク家具と協業して吸音パネルやソファを製作。また、オランダの企業とのコラボレーションにより、シューズ粉砕材料を使用したキャビネットの天板も導入している。これらの什器をオフィス内に配置することで、ブランドの精神性とサーキュラーエコノミーの実現に向けた姿勢を空間全体で体現している。
移転から約1年が経過し、社員は新しいオフィス環境を使いこなしている。移転初日には空席が目立っていたフォーカスエリアも、今では座席を確保するのが難しいほど活用されている。加えて、ワンフロア化とABWの導入により、異なる部署の社員同士が偶発的に会話を交わす機会が圧倒的に増加した。総務部東日本総務チームの岩本江利子氏は「ワンフロア化により、他部署の社員とすれ違いざまに相談できるなど、コミュニケーションのハードルが格段に下がった」と変化を実感している。

廃棄予定の同社の未使用シューズを原料に用いて製作された特注ソファ

集中作業や秘匿性の高い作業ができるようパネルで仕切られ、
周りの視線や音が軽減されたフォーカスエリア
従業員を最優先する企業姿勢と未来への歩み
アシックスが新オフィスに託した最大のメッセージ―それは、「すべての原動力は人である」という揺るぎない想いだ。堀込氏は言う。「従業員一人ひとりが自律的に働き方を工夫し、高いモチベーションとエンゲージメントを持って、業務に取り組める環境を提供することを重視しています」。この姿勢は、現役の社員に対してはもちろんのこと、これから同社で働きたいと願う未来の仲間に対する発信でもある。実際に、採用面でも新オフィスの存在は寄与しており、新卒採用や中途採用において、優秀な人財が集まってきているという。また、神戸本社からの出張者や海外拠点のメンバーが東京オフィスを訪れた際にも、その素晴らしい環境に触れることで、会社全体の働きがいや誇りが醸成されている。アシックス(ASICS)の名前の由来は、創業哲学である「健全な身体に健全な精神があれかし(Anima Sana In Corpore Sano)」という、ラテン語の頭文字を取ったものだ。心身ともに 健康で、充実した環境の中で働いてほしいという願いが、新しいオフィスには凝縮されている。
創業から75年、アシックスはかつてのオフィス環境から脱却し、丸の内という新たなフィールドで、次なるステージに向けた一歩を踏み出した。従業員を第一に考える姿勢を貫きながら、部門を越えたコラボレーションを加速させ、世界市場で成長し続けるための新たな拠点として、丸の内のオフィスは大きな役割を果たしていく。

オープンなミーティング、共同作業、ブレストのほか、個人作業もできるコラボレーションエリア
プロジェクト事例
企業・施設 | 株式会社アシックス 東京オフィス / アシックスジャパン株式会社 本社オフィス | |
|---|---|---|
所在地 | 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー24階 | |
延床面積 | 約1,000坪 | |
人員 | 約500人 | |
開設時期 | 2025年5月 | |
CBRE業務 | ワークプレイス戦略、オフィス設計、チェンジマネジメント、オフィス仲介、旧自社ビル売買仲介、T&Tによるプロジェクトマネジメント | |
※1:アシックスは、1977年7月21日にオニツカ株式会社、株式会社ジィティオ、ジェレンク株式会社の3社が合併して誕生
※2:仕事の内容・状況に応じて「最もパフォーマンスが発揮できる場所」を社員が自ら選択して働くことができる環境