冷凍冷蔵倉庫のマーケットについて考えるとき、やはり食にまつわるニーズの変化を見逃すことはできません。
近年、共働き世帯の増加や女性の社会進出、高齢化といった社会の変化にともない、冷凍食品や調理済食品(中食)の需要にさらなる高まりがみられるほか、新しいニーズとして「食品EC」や「ふるさと納税」も注目されています。
冷凍食品は調理の手間を省きながら多様なメニューを楽しめることから忙しい現代人にとってなくてはならないものですし、買い物に行くことが難しい高齢者や過疎地域に住む人々にとって食品ECはこれから生活を支える基盤とも言える存在になっていくでしょう。
また、多くの方が身近でお得な納税手段として利用しているふるさと納税でも、人気の中心は肉類や魚介類といった食品です。これらの商品は冷凍で配送されることが多いため、冷凍冷蔵倉庫の需要をさらに押し上げています。
一方で、令和4年度の経済産業省の調査〔図1〕によると、飲料・酒類を含む食品等のEC化率はわずか4.16%に留まっています。
今後、新しいニーズをつかもうと多くのEC事業者や小売り事業者などが食品ECに参入していくことで冷凍冷蔵倉庫の需要をさらに押し上げることが期待されるでしょう。
冷凍冷蔵倉庫が活用されるのは、食品だけではありません。工業製品や医薬品を保管するための需要も生まれています。
たとえば、樹脂のように温度によって状態変化を起こしてしまうものはもちろん、「倉庫内温度を一定に保つ」という能力を利用し精密機器を安定して保管するために利用される場面も増えています。
医薬品の品質維持にも温度管理は不可欠で、とくにワクチンや生物学的製剤などは厳密な温度管理の下で保管・輸送することが求められます。新型コロナウイルスワクチンのために超低温の保管・輸送技術に注目が集まったことは記憶に新しいのではないでしょうか。
さらに、いま日本各地で竣工予定である半導体工場関連の需要も見逃せません。具体的に求められる倉庫の仕様までは明らかになっていませんが、シリコンウエハーなどの材料、あるいは製造装置の一部には温度変化に敏感なものがあるためです。
先に解説した食品保管需要の高まりに加え、工業製品や医薬品の保管需要も取り込んでいくことで、冷凍冷蔵倉庫の投資価値は今後も高まっていくものと思われます。
冷凍冷蔵倉庫といえば、これまでは湾岸部に建設されることが一般的でした。主要な利用目的が海運を利用した食品の輸出入であったためです。
しかし、ここまで解説してきたように冷凍冷蔵倉庫の需要が多様化したことで、立地戦略にも新しい選択肢が見えてきました。
たとえば食品ECでは、消費地への迅速な配送と雇用確保の観点から、人口集積地に近い都市部や郊外にも冷凍冷蔵倉庫の需要が生まれています。
また、工業製品や医薬品においてはBCPの観点から分散保管を望まれることも多く、やはり湾岸部に限らない需要があるでしょう。
首都圏を例にとれば、これまで「東京ベイエリア」や「国道16号エリア」の湾岸部に集中していた立地需要が、「国道16号エリア」(大宮、所沢、千葉など)にまで広がり、さらに今後は「圏央道エリア」(青梅など)にまで広がっていくことが予測されます。
また、エリアが変われば賃料も変化していきます。倉庫の仕様やサイズによって異なりますが、同立地のドライ倉庫(※冷凍冷蔵倉庫ではない一般的な倉庫のこと)より割高に設定されることが一般的です。
ただし東京ベイエリアや外環道エリアのように需要が集中する立地では、現実的なコスト域に収めるため、ドライ倉庫との賃料差が縮まる傾向があるなど、エリアによって相場に違いが出る傾向もあるようです。
いずれにせよ、今後は需要の変化に応じた新たな立地戦略も視野に入れていくことで、より広がりをもった魅力的な投資対象になっていくものと思われます。
冷凍冷蔵倉庫の需要が多様になった影響は、立地だけでなく倉庫の形態にも現れはじめました。
これまでの冷凍冷蔵倉庫といえば大型のBTS(Built To Suite : 顧客の注文に応じて設計・建築される形態)が一般的でした。しかし食品ECや工業製品などの新しいニーズの受け皿となるには投資規模があまりに大きいため、今、「パレット貸し」や「マルチテナント型」といった形態に注目が集まっています。
パレット貸しは必要な期間だけパレット単位でスペースを借りることができるため、おせち料理のように季節性が強い商品を扱う場合など、一時的に比較的小さな保管スペースが必要なニーズには強い味方になるでしょう。
マルチテナント型はBTSとパレット貸しの間を埋める存在で、大型の冷凍冷蔵倉庫を複数のテナントで分割して利用します。パレット貸しのような短期間ではなく、中長期的に冷凍冷蔵倉庫を利用したい新興事業者や新規参入組にとっては優れた選択肢と言えるでしょう。国内では日本GLPが主に扱っており、BTSのように充実した付帯設備を持ちながらもコストを抑えて冷凍冷蔵倉庫を利用できる点が大きなメリットです。
これらの形態ではBTSのように大規模な投資が不要であるだけでなく、事業規模に合わせて柔軟に賃貸面積を変えられたり、一時的な需要に応えられたりと、特に新興の事業者にとってはメリットが大きく、今後のさらなる展開が期待できます。
さらに、ニーズの多様化によって温度帯を柔軟に選べる冷凍冷蔵倉庫も出始めました。
冷凍商品と冷蔵商品の両方を扱う食品ECや、「冷凍する必要はないが、一定の温度で安定させたい」というニーズを持つ工業製品や医薬品などにとっては、これらも新しい選択肢として魅力的です。
ただし、建築費用は温度帯が定まっている場合よりも高くなりますので、投資対象として考える場合にはニーズの動向をよく見ていく必要があるでしょう。
ここまで見てきたように、冷凍冷蔵倉庫の市場は私たちの生活や産業構造の変化に合わせ、新たなフェーズを迎えようとしています。
保管するものが食品から工業製品、医薬品にまで広がり、立地もこれまでの湾岸部から内陸部にまで拡大し、倉庫の形態も従来の大型BTSから、より柔軟性の高いマルチテナント型やパレット貸しへと多様化が進んでいます。
こうした変化は、冷凍冷蔵倉庫が社会の重要なインフラとして、その役割をますます大きくしていることを示していると言えるでしょう。
実際、米国では魅力的な投資対象とみられて「コールドストレージ」と呼ばれる定番のアセットタイプとして根付いています。
その背景には国土の広さや特有の物流事情など独自の事情もありますが、日本でも同様に投資対象としての魅力は高まっていくのではないでしょうか。
一方、国内で得られる冷凍冷蔵倉庫の投資情報は限定的で、リスクとオポチュニティーを正しく判断するのは難しいのが現状です。
その理由は、多くの冷凍冷蔵倉庫が自社物件またはBTSであることからデベロッパーの実績、市場のニーズ、それに対応するストック量、そして投資家の情報が掴みにくく、あったとしても散在していて情報収集するだけでも一苦労だからです。
しかし、投資対象としての冷凍冷蔵倉庫市場には、まだまだ開拓の余地があります。多様なプレイヤーが情報やノウハウを共有できるプラットフォームの構築が、市場の健全な発展に不可欠でしょう。
CBREは、冷凍冷蔵倉庫に関する市場データの整備と情報発信を通じて、この成長市場の発展に貢献してまいります。
CBRE「冷凍冷蔵倉庫に関する需要調査」調査概要
| 調査方法 | WEBによるアンケート調査 |
|---|---|
| 調査期間 | 2024年6月13日~25日 |
| 調査対象 | 物流施設ユーザー企業 |
| 回答者数 | 108(物流企業89、荷主企業19) |








