物流の2024年問題への挑戦

不動産戦略・動向
更新日 : 2023年01月31日掲載日 : 2022年10月13日
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少子高齢化の進展に伴い、トラックドライバー等の慢性的な人手不足など、近年、物流をとりまく危機的状況はますます深刻化し、物流クライシスと言われるほどになっている。
さらに、2024年4月からは働き方改革関連法が自動車運転業務にも適用される、いわゆる「物流の2024年問題」に直面し、物流に関係するあらゆる業界・企業の動きが慌ただしくなってきている。〔図1〕
そんな中、加工食品業界において、いち早く動き出したのが、味の素株式会社だ。事業を通じて社会課題を解決し、社会とともに価値を共創していくことを理念とする、味の素。自社だけの物流改革のみならず、メーカー、加工食品業界、さらには業界団体や行政をも巻き込み、商慣習の見直しを含め「日本の物流の進化」に向けて邁進している。物流に関わる諸課題の解消に向けた取り組み、今後の物流のあり方などについて、味の素㈱上席理事 食品事業本部 物流企画部長の堀尾 仁氏に話を訊いた。

味の素株式会社 上席理事 食品事業本部  物流企画部長 堀尾  仁氏

味の素株式会社
上席理事
食品事業本部 物流企画部長
堀尾 仁

他社との連携、共同集配や積載率の向上が上位

敬遠される加工食品業界から 持続可能な物流を構築していく

私たち味の素は、「おいしく食べて健康づくり」という志のもと、1909年に創業した企業です。当時は世界初のうま味調味料である「味の素」を世の中に広くお届けすることで、人びとの栄養改善をめざしていました。事業を通じて社会課題を解決し、社会とともに価値を共創していきたいという思いは、いまも受け継がれており、現在はASV(Ajinomoto Group Shared Value)という理念のもとで活動をしています。

そのような中、味の素の物流企画部である私たちが昨今、そのミッションとして取り組んできたのが、加工食品業界における持続可能な物流の構築です。物流の現場では、かねてよりトラックドライバーをはじめとする人手不足が叫ばれており、2024年4月には、働き方改革関連法が自動車運転業務へ適用される「物流の2024年問題」が控えています。それらに加え、私たち加工食品業界における物流は非効率な部分が多く、現場では敬遠されがちです。国土交通省の調べでは、 30分で済む荷下ろしのために7時間待ったケースもあるなど、納品時における待機時間の長さは全産業中でワーストワン。出荷から納品に至るまでには積み下ろしや積み替え、厳しく複雑な検品やフォークリフト作業など、多岐にわたる附帯作業もあります。また、受注翌日配送など、リードタイムが短く、時には夜間作業が伴います。そのため、他の業界と比べると、一人ひとりのドライバーにのしかかる運転以外の業務負担が大きく、近年は加工食品を取り扱わない配送業者も見受けられます。また、昨今、大雨洪水や台風、大雪、地震といった自然災害が激甚化しています。そこへ、コロナ禍が発生し、非接触や非対面といった生活様式も広がりました。CO2削減など、環境への配慮ももちろん大切です。加工食品業界の一員として、これらの課題にトータルで対応していかなければ、いずれ届けたいものが届けられなくなります。〔図2〕実際問題として、ドライバーの労働体系がこのままでは、2024年度末には年間960時間とされる時間外労働の上限を超えてしまい、この業界の物流はストップしてしまいます。そんな状況に危機感を抱き、加工食品業界における物流環境の改善に取り組むようになりました。

図2:加工食品物流の課題と物流を取り巻く危機的環境

物流環境が激化していく流れの中では、これまでも物流が滞ったケースはありました。2013年12月にはドライバー不足によって配達できない事例が生じ、翌年3月には消費税増税を前にした駆け込み需要で物流が増え、トラックが手配できないという状況に。その結果、国土交通省や経済産業省など、行政には監督強化や法令順守を強く求められ、経済団体などからも物流における商慣習の見直しが提言されるようになりました。

そのような状況に鑑みて、私たち味の素は、「配送業者に選ばれる荷主」になることをめざし、社内の物流改革に取りかかりました。〔図3〕一方で、1社だけの取り組みに限界を感じ、加工食品各社の物流部門担当者にお声がけし、業界における物流環境の改善に向けた議論も開始。 2015年2月には、味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清製粉ウェルナ、ハウス食品グループ本社、Mizkanの6社が参加する「F-LINEプロジェクト」を立ち上げ、食品企業物流におけるプラットフォームの構築をめざすようになりました。 2016年には、北海道で共同配送と幹線輸送の共同化を実現したほか〔図4〕、2018年には、九州で共同の在庫拠点を開設し、共同配送を実施。〔図5〕2019年4月には、F-LINEプロジェクトの「競争は商品で物流は共同で」という理念の実現のために各社の物流子会社を統合しF-LINE社を発足させ、メーカー・卸・販売における課題の協議や解決に向けて動き出しました。

図3:味の素の物流改革によるモーダルシフト率、積載率等の推移
 
図4:F-LINEプロジェクト―北海道の成果
図5:F-LINEプロジェクト―九州の成果

また、F-LINEプロジェクト以外のメーカーとも協議をするために、2016年5月には「SBM会議(食品物流未来推進会議)」も立ち上げました。こちらには先の6社に加え、キッコーマンとキユーピーが参加し、メーカー・卸・販売における今後の課題を議論しています。同様に2018年5月には、「持続可能な加工食品物流検討会」を発足し、翌6月には国土交通省が開催した「加工食品における生産性向上及びトラックドライバーの労働時間改善に関する懇談会」に参加。日本加工食品卸協会や各小売業界団体のほか、国土交通省・経済産業省・農林水産省・厚生労働省といった行政など国内の物流に関わる各位を幅広く巻き込みながら議論を重ねてきました。〔図6〕今年4月には、製配販5団体で、持続可能なサプライチェーンを構築する「フードサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト」(FSP)を発足、とくにリードタイムの延長問題への対応に重点を掲げた議論を開始したところです。

図6:加工食品業界のこれまでの連携活動概観

国土交通省は4年ごとに総合物流施策大綱を策定し、経済産業省は、フィジカルインターネットと呼ばれる、持続可能な物流システムの実現に向けたロードマップや、業種別のアクションプランを公開しています。〔図7〕これらの策定には、業界団体や業種別ワーキンググループの意見も反映されており、あとは各業界の企業がそれらを参照しながら、具体的に行動を起こしていくという段階です。私たち味の素としても、以前より持続可能な加工食品物流の構築に取り組み、物流におけるマネジメントやオペレーションのスマート化に努めてきました。足元の課題としては、目や手、紙や鉛筆を使うなど、ドライバーをはじめ、人の負担となっていたアナログ作業をデジタル化し、他メーカーとの共同配送などを想定した外装サイズの標準化や、スムーズに検品ができる外装表示、コード体系の標準化などを進めたいと思います。これらは個別の企業における取り組みになり、各社で進捗にバラつきがあったりもしますが、伝票の電子化なども含め、業界が一体となって標準化やデータの共有化を進めることができれば、現場におけるドライバーの負担の解消はもとより、配車予約から納品まで、より効率的で無駄のない物流システムが構築できると考えています。加えて、これまで加工食品業界の物流でボトルネックとなっていた、短い納品リードタイムの見直しも進め、行政やメーカー・卸・販売に関わる業界団体と実証実験も行っています。その結果、リードタイムの延長が実現可能であることも分かりましたし、業界としてゆとりのあるリードタイムの確保と標準化をめざしています。〔図8〕

図7:対立解消アイディア挿入後のアクションプランの関連図〔明治大学 橋本雅隆教授作成〕
 
図8:現在の活動の全体スキーム

私たち味の素は、加工食品業界の一員として物流環境の改善に取り組んできました。〔図9〕しかし「2024年問題」をはじめ、これからの物流における課題は、あらゆる業界に共通するものです。それぞれの業界や企業で人手に頼らない物流のスマート化が推進されていますし、今後は業界の垣根を越え、日本の産業全体でより汎用性の高い物流環境の構築が必要になることでしょう。私たち味の素も、まずは自社における物流改革に取り組み、同時にF-LINEやSBM会議など、議論の輪を業界内に広げてきました。行政による物流施策大綱やフィジカルインターネット実現に向けた取り組みのもと、他の業界でも議論は盛んに行われており、物流クライシスをともに乗り越えていこうという気概を感じます。最初にも申し上げたとおり、私たち味の素は、事業を通じて社会課題を解決し、社会とともに価値を共創していくことを理念としています。私たちの物流における取り組みが、国内のサプライチェーン・マネジメント全体へ広がり、未来に向けた持続可能な物流の構築に貢献できたらと思います。〔図10〕

図9:「持続可能な加工食品物流構築」に向けた味の素㈱の取り組み
 
図10:持続可能な加工食品物流実現に向けたステップ
 
味の素株式会社
上記内容は 「BZ空間」2022年秋号 掲載記事
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