株式会社ジェイアール東日本物流|物流拠点構築ケーススタディ

ケーススタディ
更新日 : 2026年09月24日掲載日 : 2026年09月24日
倉庫
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コロナ禍を契機に物流体制を抜本的見直し。
緻密なデータ分析に基づく拠点統合で、
次世代の旗艦四温度帯拠点を構築。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

株式会社ジェイアール東日本物流
市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

JR東日本グループの物流中核企業として、駅構内の店舗、駅ビルへの商品配送、さらには鉄道関連資材の運搬などを幅広く担う株式会社ジェイアール東日本物流。近年、ECの急拡大や深刻な人手不足、そして温度管理ニーズの高度化といった食品物流を取り巻く環境変化が加速しているが、そうした中、同社はコロナ禍による駅需要の減少を契機として、これまで温度帯別に分散・多重化していた物流拠点の統合とネットワークの再構築を決断した。2026年6月、千葉県市川市の所有地に次世代の「市川ディストリビューションセンター」を新設。常温と冷凍冷蔵機能を備えた四温度帯の旗艦施設構築の背景と、新たな働き方への取り組みを取材した。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

食品物流の環境変化とコロナ禍の打撃、既存ネットワークの構造的課題に直面

株式会社ジェイアール東日本物流は、首都圏を中心に膨大な数のJRエキナカ店舗や商業施設を支える「生活インフラの血流」とも言える重要な役割を果たしている。しかし昨今、物流業界全体が大きな転換期を迎えている。EC市場の爆発的な成長に伴う物量の増加、ドライバーを中心とした慢性的な人手不足、さらには消費者ニーズの多様化による食品の温度管理(コールドチェーン)に対する要求の高度化など、食品物流を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。

こうしたマクロ環境の変化に加え、同社に直接的な打撃を与えたのが新型コロナウイルスのパンデミックであった。駅の利用者が激減したことで、JR東日本エリアの駅需要に直結する同社のビジネスはかつてない試練に直面した。「荷量が減少し、トラックの積載率が著しく落ち込んだ時期でも、車両の維持費やドライバーの人件費といった固定費はかかり続けます。結果として収支バランスが大きく崩れ、この強烈な危機感から既存事業の 抜本的な見直しが急務となったのです」と、本プロジェクトをこれまで牽引してきた、同社企画本部経営企画部副課長の川崎潤平氏は当時の逼迫した状況を振り返る。

事業見直しの中で明確に浮き彫りになったのが、同社の物流ネットワークが抱える構造的な非効率さだった。かつて同社の配送は、常温(ドライ)の雑貨や菓子類が中心であった。しかし、グループ内における物流体制の見直しとともに、弁当や惣菜、デザートといったチルド・冷蔵商材の取り扱いを拡大してきた経緯がある。「そのため、商材の温度帯ごとに物流拠点と配送ネットワークが個別に構築されてしまっていました。同じ駅の同じ店舗へ納品するにもかかわらず、温度帯が違うだけで別々のトラックが向かうという、極めて非効率な多重輸送が常態化していたのです」と川崎氏。

中長期的な成長戦略を見据えた時、この分断されたネットワークを統合し、常温と冷凍冷蔵機能を一元的に備えた「旗艦施設」を構築することは、同社にとって避けては通れない必然の選択だった。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

シミュレーションが導き出した最適解、広域配送の要衝「市川市二俣」への統合

2022年、同社は現状の打開と配送網の最適化に向けて本格的に動き出した。しかし、長年にわたり現場の経験則や勘に頼ってきた側面もあり、大規模な拠点再編という重大な意思決定には慎重な声も少なくなかった。そこでプロジェクトチームは、SCM(サプライチェーンマネジメント)に特化した最新のシミュレーションソフトウェアを導入。徹底したデータ主導(データドリブン)のアプローチを採用した。

「既存の各拠点の位置、全配送先のデータ、品目ごとの荷量実績などをシステムに投入し、実に26種類ものシナリオパターンを検証しました。その結果、コスト最小化に向けて最も合理的な最適解として導き出されたのが、千葉県市川市二俣にある当社用地を活用した拠点統合だったのです」(川崎氏)。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

新拠点の立地として市川市二俣が選ばれた最大の理由は、首都圏広域配送における圧倒的な優位性にある。高速道路のインターチェンジへのアクセスが良好であり、巨大な消費地である都心部へのアプローチにおいて絶好のロケーションを誇る。さらに、駅への配送がメインである同社にとって、首都圏に多数の配送先がある点でも、ポテンシャルの高い立地であると評価された。

当該敷地は、敷地面積4,200坪、建築面積2,500坪という規模を有する。かつては低層の倉庫が建っていたが、近年は外部に賃貸されるなど自社利用としては十分には活用されていなかった資産だった。定量的かつ客観的なデータによってその価値が再定義されたことで社内の合意形成もスムーズに進み、2023年12月の取締役会にて新築工事が正式に決議された。

設計・施工のプロセスにおいては、常温と冷凍冷蔵の複合施設特有の難しさに直面したという。断熱材の施工や大容量の電源設備、特殊な空調機器の導入など、一般的な常温倉庫や冷凍冷蔵倉庫と比較して莫大なコストと高度なエンジニアリングが要求される。同社は設計・施工・プロジェクトマネジメントといった社内外のパートナーと緊密に協働することで、コストコントロールと品質確保という相反する課題の克服に注力し、開発を推し進めた。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

自動化とESGを実現する次世代施設、多様な人材が輝く「働きやすさ」の追求

2026年6月の竣工に向けて建設が進められてきた新施設は、「次世代四温度帯のハブ」という開発コンセプトを体現する様々な工夫が凝らされている。

最大の特長は、その緻密な施設全体計画とゾーニングにある。1階に広大な冷蔵・定温(18℃)エリア、2・3階に常温(ドライ)エリア、4階に冷蔵・冷凍エリアを配置し、建物の縦横の空間を最大限に活用している。「異なる温度帯の商材を同じ施設内で効率的にピッキング・仕分けし、1台のトラックに積み合わせ(混載)できるハイブリッドなバース計画を採用しました。また、トラックの場内動線や車両待機スペースもシミュレーションを重ねてバース予約システムの導入検討も含めて最適化し、昨今の物流業界の課題である荷待ち時間の削減に直結する倉庫レイアウトを構築しています」と川崎氏は胸を張る。

さらに、食品安全とトレーサビリティを最高水準で確保しつつ、ピッキング作業における過酷な作業環境に配慮した設備設計が行われている。具体的には、パレット自動倉庫・ピッキングロボット・シャトル等のマテリアルハンドリング(マテハン)機器や、高度な倉庫管理システム(WES)等の自動化設備を積極的に導入。データ活用による徹底した省人化とオペレーションのDX化を推進している。

また、ESGの観点から、環境負荷低減への取り組みも抜かりない。冷凍冷蔵施設特有の莫大なエネルギー消費という課題に対し、最新鋭の省エネ設備の導入や、屋上への太陽光発電設備の設置により、CO2排出量の削減を強力に推し進めている。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

一方で、同社がシステム以上に心血を注いだのが、従業員の労働環境改善と「働きやすさ」の追求だ。総務部副課長の齋藤啓子氏は、人材確保の観点からこう力説する。「物流業界全体で人手不足が叫ばれる中、女性や高齢者を含む多様な人材が快適に、そして長く働ける施設であることが不可欠です。そのため、従来の倉庫のイメージを覆すような洗練されたエントランスや、24時間営業の売店を併設したカフェテリアを整備しました。温熱環境や動線の改善はもちろん、人が集まりたくなる空間づくりにこだわっています」。

セキュリティと利便性を両立する、物流施設としては珍しい顔認証システムの導入に加え、オフィスエリアではABW(Activity Based Working)を採用。これにより、「錦糸町の本社部門のスタッフが市川をサテライトオフィスとして利用するなど、部門間の垣根を越えたコミュニケーションを誘発する仕掛けも用意していく予定です」(齋藤氏)。

市川モデルから始まる新たな価値創造、グループの枠を超えた成長戦略へ

この市川市二俣の統合物流拠点は、竣工後に劇的な物流効率の向上と収益性の改善をもたらし、顧客価値を飛躍的に高めることが期待されている。しかし、それは同社が描く壮大なビジョンの第一歩に過ぎない。

「まずは既存業務の効率化とJR東日本グループ内の物流基盤の強化が目的ですが、私たちの最終的な狙いは、ここで確立した自動化やコールドチェーンの運用モデルを、将来の物流ネットワーク構想のベースとして他エリアへ横展開していくことです」と川崎氏は今後の展望を語る。

実際、シミュレーションで描かれたマスタープランに基づき、すでに西東京エリアでの新たなコールドチェーン拠点新設に向けた準備も進められている。さらに同社は、この市川の拠点で培うノウハウを武器に、グループ外の一般市場におけるコールドチェーン事業のさらなる拡大も見据えている。

緻密なデータ分析から導き出された合理的な物流機能と、そこで働く人々のウェルビーイングを両立させた「市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)」。この旗艦施設から、ジェイアール東日本物流の新たな物流変革と価値創造の挑戦が始まろうとしている。

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

プロジェクト概要

企業名

株式会社ジェイアール東日本物流

施設

市川ディストリビューションセンター(JREL市川DC)

所在地

千葉県市川市二俣717-68

敷地面積

1万4500.58㎡

建築面積

8682.92㎡

延床面積

3万3430.85㎡

構造・規模

S造・地上4階、塔屋1階建

主要設備

四温度帯倉庫(-20℃、5℃、18℃、常温)、マテハン設備、太陽光発電設備、非常用発電設備、無人売店併設カフェテリア(売店は2026年内稼働予定)

竣工

2026年6月

CBRE業務

T&Tによるプロジェクトマネジメント

上記内容は 「BZ空間」2026秋号 掲載記事
です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。